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※微本誌バレ

 悟に手を下された。次の瞬間、私は空港のような場所にいた。

「あ、傑死んだ?」

 そう言う名前は随分懐かしい存在だ。記憶のまま、高専の制服を着ている。見れば、私も高専時代の格好をしていた。

「君がいるということはここは死後の世界か」

 発着ゲートだということにも想像がつく。私が行くのは地獄だと思っていたけれど、それはこれからということなのだろうか。大方名前は私を迎えに来たのだろう。名前の隣に腰を下ろす。

「私が死んだことちゃんと知ってたんだね」
「勿論」

 名前は私が高専を離れた後、任務で死んだ。それに私が離反したことがどれほど関わっていたのかはわからない。任務が手につかないほど落胆していたわけではないだろうが、少なからず気にしてはいただろう。

「離反したきっかけは私じゃなかったんだっていうのは少し寂しかったかな」

 高専時代のことを思い出す。当時は、色々なことが積み重なって、重荷のようになっていた。名前との恋愛など考えている暇もなかった。名前には、灰原の死で離反したと思われているのかもしれない。名前の死は私が離反した後だったから、あれ以上悪に走ることもできないだろう。

「君のことはずっと調べていたよ」

 名前を宥めるように言う。名前は、少し拗ねたような声色を出した。

「でも私のためには死んでくれなかった」

 私は思わず笑った。名前は本当に少女のままだ。自分の理想を追い求め続けた私に、置いて行かれた感覚でいたのだろう。

「逆だよ。名前がいない世界なんかどうでもいいから、あんな馬鹿げたことを始めたんだよ」

 私は視線を隣に移す。名前が私を覗き込むように見上げた。こうして懐かしい感情が湧き上がってくるのは制服を着ているからか、それともずっと押し殺していた感情なのか。

「好きだ」

 たとえこの先行く道が地獄でも、私は伝えられずにはいられなかった。