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 部屋の中央でくつろぐ姿を見て、佐久早はため息をつきたい気持ちになった。

「よく昨日振られたばっかで家に来る気になるな」
「だって聖臣は幼馴染じゃん」

 そう言う名前は何も気にしていない様子である。こんなものか、とどこか落胆する気持ちがあった。名前は元也と同じ幼馴染で、以前から家を行き来している。だからこうして家に来るのは普通と言えるのだけど、名前が切羽詰まった顔をして告白した翌日は流石に控えるべきだろう。何も気にしていない様子を見ると、佐久早のことはそれほど好きではなかったのかという気持ちに駆られる。何故、本気で好きでいてほしいと思ってしまうのだろう。

「中学の時付き合ってた奴と、俺と、どっちが好きだった」

 佐久早は遂に尋ねた。佐久早は名前の初恋ではない。名前は中学から、それなりに恋愛をしていた。

「んー……難しいかも」
「おい」

 佐久早は眉をしかめる。名前はスマートフォンから顔を上げ、どこか得意げな顔で言った。

「私軽い恋愛はしない主義だからね。聖臣のことも本気で好きだったよ」

 この答えを、待ち望んでいたはずなのに。気まずいと思ってしまうのは、佐久早がその気持ちに応えられないからだろう。ならば言わせるべきではなかった。罪悪感のような感情が渦を巻く。名前は何も気にする様子もなく、またスマートフォンに目を戻した。