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「本当にお似合いね」

 きっかけは任務先で出会った婦人の一言だった。いつものように名前と大声を出して口喧嘩していたら、それを恋仲のように捉えられたのだ。どこか得意げな気になりながらも、五条はそっぽを向く。

「誰がこんな奴のこと好きになるかよ」

 サングラスで濁った景色を眺めながら、名前が反論してくるのを待つ。名前はいつも血気盛んだから、これにも突っかかってくるだろうと思ったのだ。ところが名前から何か発する気配はない。まさかいなくなってはいないよな、と思って五条は名前の方に視線をやった。

「何で言い返してこねえんだよ」

 あの五条が、名前の機嫌を伺うような真似をしている。気持ち悪いと思いつつも、そのままにはできない。

「だって好かれてないのは事実じゃん」
「それはわかんねえだろ!」

 思わず叫んでから、ふと我に帰る。あまりに勢いよく言っては、名前を好きみたいだ。いや、好きではあるのだが、それを名前に気付かれたくない。だが名前に落ち込んでいてほしくもない。複雑な男子心である。

「つーか弱っちいのは事実じゃないと思ってんのか」

 五条が名前を弱虫だと言えば、名前はいつも言い返してくる。五条は話をそらすようにした。

「それは五条の言い過ぎな所が出ただけでしょ」
「本当に弱っちいから気を付けろって言ってんだよ」

 またしても無意識に本音を滲ませてしまった。名前の身を案じるなど、名前が好きだと白状しているようなものではないか。でも名前は気付く様子もなく、どこかしょげたままだった。早く元に戻ってほしくて憎まれ口を叩いたら逆効果だということにも気付かず、五条は口を開く。そうしてまた、冒頭に戻る。