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冴との試合が終わった。凛は海辺に一人佇んでいた。そうすることで頭の中を巡る様々なことに終わりが来ると思ったのだ。しかし時間が経てどそんなことはなく、代わりにやってきたのは幼馴染の名前だった。控えめに、凛の様子を窺うように、足音がする。
「凛、ちゃんと過ごしてる? ストレス解消とかできてるの?」
凛の心がめらりと音を立てる。名前に心配される筋合いはない。何だその、母親のような言い方は。
「腫れ物扱いすんな」
凛は顔をそちらへ向けないまま言った。試合をテレビで観ていただろう名前は、冴と凛が何を会話したかを知らないだろう。たとえ聞こえていても、冴に対しわだかまりを持つ凛の感情など理解できるはずがない。名前を傷付けるとわかっていて、凛はわざと強く当たった。だが、名前に引き下がる様子はない。
「不登校になったんでしょ?」
「は?」
凛は思わず振り向く。名前は冗談を言っている風ではなく、本気で心配しているようだった。そういえば、他校の名前は凛が何故学校を休んでいるか知らないだろう。結果として凛が学校に行っていないという情報だけが共有されたのである。
「ブルーロックに入ったって、試合観てねぇのかよ」
「知らなかった」
名前は目を丸くしている。凛は意図せず拗ねたような声を出した。
「俺の試合観てねぇのかよ」
そんなに心配するくせに、凛の試合は観ないのだ。観ろよ、と言いたくなる。それでは馴れ馴れしい気がして、ぐっと堪える。
「馬鹿らしくなってきた」
凛は立ち上がった。凛が冴のことで悩んでいる間に、名前は不登校児にどう接するかを考えていたのだ。名前に付き合うだけ無駄である。名前は凛の後を小さな歩幅でついてきた。
「凛を励まそうと思って旅行の日程組んできたのに」
「高校生の男女が一緒に旅行すんな」
名前のこの、世間とずれている所は何なのだろう。凛がブルーロックにいる間は近くで見てやれないのだと思うと、無性に苛立った。
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