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「千切くんゴムあげるよ」
廊下でそう声をかけられ、俺は少なからず動揺した。だってそうだろう。俺は思春期の男子だし、相手は女子だ。誘われているのか、それとも軽蔑なのか。いずれにせよ、あまり話したことのないクラスメイトを意識するには十分だった。
「何でお前が……!?」
「必要そうだから」
俺はそんなにやりまくりだと思われているのか。モテていると思われているなら、まあ悪くない。
苗字が手を出したので、俺は慌てて隠すように受け取った。このやりとりは、なんだか女子の生理用品の受け渡しを連想させる。ものの内容は、関連性があると言えなくもない。
俺は恐る恐る、手のひらの中のものを見た。それはなんてことのない、ヘアゴムだった。ゴムはゴムでも、髪をまとめる方のゴムだったのだ。俺が予想していた方ではなかった。なんだ、と項垂れそうになる。期待させやがって。と文句を言おうにも、苗字は既に廊下を去っていた。
俺は拍子抜けした気持ちで教室へ戻る。苗字と何かあるというわけではなかった。別に苗字を好きなわけではないのだけど。
席へ着いてちらりと苗字の方を見ると、苗字の髪に同じ色のヘアゴムがあった。二つセットのものをくれただけだろうが、クラスメイトがあまり気付かないだろうヘアゴムというものをお揃いにしている、その密な雰囲気が俺の気持ちを高揚させた。
「まあいいか」
俺はそのヘアゴムで髪をくくる。俺にまとわりついてくる女子は、俺が苗字とお揃いのものをつけていると知ったらどんな顔をするだろうか。
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