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 球技大会で優勝した。辛勝だっただけあり、盛り上がりは相当なものだった。クラスの目立つ男子など、クラスTシャツを脱いで上裸になっている。一方チームの勝利に貢献した佐久早はと言えば、しっかりとジャージを着込んでいた。

 佐久早は脱がないのかとでも言いたげな視線が向けられたことに気付いたのだろう、彼は口を開いた。

「男が全員上脱ぐの平気だと思うな」

 今やクラスの男子の半数近くが脱いでいた。男子はプールなどで強制的に脱がされるが、それが苦手な人も存在するのだろう。なんとなく、運動部の佐久早が該当するのは意外だ。

「えー、私なら脱いじゃう」
「何言ってんだ破廉恥女」

 佐久早の鋭い視線が飛ぶ。私は小さく笑い出した。

「男だったらの話だよ」

 流石に女の体で下着をあらわにするわけにもいかない。今クラスの中心に集まらずに隅から眺めているだけなので説得力がないけれど、男体だったら脱ぐくらいのパフォーマンスはするだろう。

「俺は好きな人にしか見せたくない」

 佐久早らしい言い方だ。乙女な所もあるものだ、と私は認識を新たにする。

「私は佐久早には見せられるかな」

 言ってから、クラスメイトの騒ぐ声だけが聞こえる。佐久早は沈黙し、眉をひそめて私を見ていた。

「どっちの話だ?」

 佐久早が言いたいのは、もし私が男だったら佐久早に上裸を見せられるということなのか、それとも女のままでも見せられるのかということだろう。まあ、それなりに困惑するのもわかる。私は佐久早をからかいたい気分だったので明言はしなかった。

「どっちだろうね」
「おい」

 私もクラスメイトが騒いでいる中心へ歩き出す。佐久早がついてくるというのが、なんとなく意外だった。