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 薄目を開けて向こうを見た時、佐久早くんは困惑した顔をしていた。嬉しくはない、つまり、私の告白は失敗に終わるということなのだろう。諦めて口を開こうとした時、佐久早くんがそれを遮った。

「嫌なわけじゃなくて」

 佐久早くんの言葉は、どこか言い訳めいている。この先にプラスの言葉が続こうとも、今佐久早くんが言葉を濁していることには変わらない。

「俺としては、クリスマスから付き合いたい」

 私の前に一筋の光が差す。

「佐久早くんは私のこと……」
「うん」

 そうして、私達は相思相愛になった。もしかしたらもっと前から両思いだったのかもしれないが、それをいつからか尋ねる勇気はない。私はクリスマスを楽しみに待った。まだ付き合ってもいないのに浮かれてしまう。

 ある日、佐久早くんと廊下ですれ違って目が合った。佐久早くんも確かに私を見ていた。私達は確かに特別だったが、付き合ってはいなかった。私がそのまま目を伏せようとした時、佐久早くんは控えめに手を振った。他でもない、私に。私は唇を噛み締めながら手を振りかえした。そういえば、今日はテストだから下校が早いのだ。

 佐久早くんと昇降口で鉢合わせ、一緒に帰ることになる。私の手はぶらぶらと揺れていた。今、どこまでしていいのだろう。なんて、付き合ったばかりの男子のようなことを考えている。私は佐久早くんが好きだから手も繋ぎたいと思ってしまうけれど、付き合っていないのならおかしいのかもしれない。

 考えている間に、手がぶつかる。私は佐久早くんを見上げてそっと呟いた。

「ダメ?」

 佐久早くんは一瞬ぐっと黙り込み、逃げるように視線を逸らす。

「別にいいけど」

 私の手が包まれる。確かな暖かさを感じながら、私はこれからについて考えていた。付き合う前からこうしていたら、いざ付き合った後どうなるのだろうと。いずれにせよ、私は幸せに違いない。私は佐久早くんの手を強く握り返した。