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「私は君が好きだよ。付き合ってくれるかい?」

 爽やかな風の吹く屋上で、彼は私に告白した。一つおかしい点を挙げるとするならば、彼は柵の向こうにいた。今にも飛び降りかねない勢いで。

「付き合う! 付き合うから!」

 私は今後のことなど考えず、彼を止めることに必死だった。私からその言葉を引き出すと、「ならよかった」と彼は簡単に柵の中へ入った。あまりにも軽やかな動作だったのでただからかっただけかと思ったけれど、彼の手には包帯が巻かれていた。きっと彼は、深刻に苦しんでいるのだ。私が支えなければ。

 と、思っていたのが一週間前のことだ。

「大宰さんっていつも自殺するんですね」

 彼――太宰さんは、事あるごとに自殺を試みた。救いを求めてするのではなく、朝起きて顔を洗うのと同じようなフランクさで。

「そんなことも知らずに私と付き合ったのかい」

 何故か太宰さんは偉そうだ。まあ、顔は格好いいし付き合って悪いことはない。良い意味でも悪い意味でも目立ちすぎるということ以外は。

「別に付き合う必要なかったじゃないですか」

 私は自殺を止めるために付き合う約束をしたのだ。付き合ってもなお大宰さんは自殺をするし、真剣に悩んでいる気配もない。

「いいや。君を守れるのは彼氏の特権だよ」
「何から……」

 私が言いかけた時、太宰さんが向かいから私の肩に手を伸ばした。ふっと風を切る音がして、大宰さんはにっこりと笑う。次に太宰さんが手を引っ込めた時、その手にはナイフがあった。私の背後に、ナイフを持った人がいたのだ。

「別れると言うなら私は死ぬ。君も死ぬ。そういうことだよ」

 私はとんでもない人と付き合ってしまったのではないかと思った。こんな軟派な男性が、裏社会から命を追われているとでも言うのだろうか。もう付き合ってしまったからには戻れない。私は泣きたい思いで頷いた。