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 家を出た時、不自然なほど視線を感じた。近所を離れてもそれは同じだった。人から離れるように海岸に近付くと、そこに凛はいた。私はわかっていたのかもしれなかった。この異常性が凛によるものだと。あるいは、凛が私を求めているのだと。

 凛は、スマートフォンの画面を差し出した。そこには私と凛のツーショットが載っていた。私も凛もいい歳の男女だ。ツーショットとなれば、恋愛を疑われるに決まっている。しかも掲載先は、ブルーロックで有名になった凛のアカウントだ。

「何で……?」

 どうして、私と恋仲であるようなふりをするのだろう。声が震えるのを感じた。頭によぎるのは、先日凛からの告白を断ったことだ。その腹いせだろうか。いや、凛は一度好きになった人に嫌がらせをするような人ではない。

「名前に俺を見てほしかった」

 凛の表情は、悪意に満ちたものではなかった。恍惚として、少し嬉しそうで、これは凛が自分の欲を満たすためにやっているのだとわかった。凛は大事そうにスマートフォンを握る。

「俺のものになってくれないなら、俺のせいで滅茶苦茶になってほしかった」

 私のスマートフォンが絶えず震えている。知り合いのみならず、凛のファンが私を特定してきたのかもしれない。凛が開いている画面には、絶えずコメントが更新されている。その中には私を誹謗中傷するようなものもある。

 デジタルタトゥー、という言葉を知っている。この時代、有名になった凛のアカウントで、写真が流出するのを止められない。永遠に残る代物なのだ。それはもう、結婚の約束にも似たものかもしれない。青ざめる私のポケットの中で、スマートフォンが小刻みに振動していた。