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真冬なのに暑い店内に、麺をすする音が響く。私と花巻は並んで味噌ラーメンを食べていた。なぜ味噌なのかと言うと、最近ではインスタントの味噌の味しか知らないと花巻が言ったからだ。男女で並んで座る私達を、時折年上の男性が迷惑そうな目で見る。私だって、意図してやっているわけではない。
「今日クリスマスだよな」
唐突に、花巻が話した。花巻のラーメンは残り少ない。
「思った」
私はコーンを箸で集めながら言う。
「気付いてるなら気まずくなれっての」
そもそも、私達が会うことになったきっかけは花巻の就職だった。「次給料入ったら奢るから」と約束をされ、花巻が働きだしたのが先月のことだ。給料日は世間の多くの会社と同じく翌月の二十五日で、奇しくもクリスマスとなってしまった。花巻は結構長い付き合いなので、別にクリスマスを一緒に過ごしても嫌ではない。
私は音を立ててラーメンをずずず、と吸った。
「ラーメン食べながら少女漫画はできないから」
そもそも、花巻だってクリスマスだと気付いているなら別の場所にすればいい。それらしいレストランなどに招かれたら笑ってしまうかもしれないけれど、行ったらそれなりに楽しく過ごせる自信はある。
「じゃあ少年漫画といこうぜ」
花巻はラーメンのどんぶりを置き、にやりと笑った。次いで私が連れられたのは、近くのゲームセンターだった。笑いをこぼしながら、私は花巻と男女の仲になってもいいと思っていたことに気付く。けれども、今居心地がいいのは、花巻とつかず離れずの仲でいるからだろう。私はゲームセンターの中へ踏み込んだ。来年のクリスマスは、どうなっているだろうか。
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