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 凛の部屋を訪れると、ファンレターだろう手紙類が段ボールに入って置かれていた。その量は、部屋の床が抜けてしまうのではないかというほどだ。

「ちゃんと返事してるの?」

 などと言う私は、凛の母親のようだ。凛の部屋に当然のように入るのは、幼馴染として行き過ぎている。私達はただの幼馴染と言うには恋愛に適齢期だった。そして、凛からの好意も感じ取っていた。

 凛の瞳がぎらりと光る。

「何で俺のには返さねえんだよ」

 正確には、凛が寄越したのは手紙ではない。「好き」という言葉そのものだ。私は言葉を濁し、その場をなんとかやり過ごした。早い話、告白を流したのだ。そんな失礼なことをされてもなお私と普通に話すくらいには、凛は私のことを好きだった。

「好きの種類が違うから」

 まあ、凛へファンレターを送っている人だって凛に本気で恋をしている人もいるのだろうが。大抵は、ファンとしての好きだろう。

「俺からお前への好きは何だ」

 凛が生徒へ答えを促すような声色で言った。その語尾には、責めるような凄みもにじんでいた。

「恋愛の好き」

 私は素直に答える。凛は怒るでもなく、ふいと視線をそらして口にした。

「わかってんなら返事しろ」

 こうしてまた、私が逃げることを許してくれる。凛は本当に私が好きで、私に甘い。私もそろそろ凛に向き合わなくてはと思うけれど、追いすがる凛が可愛くて見ていたくなってしまうのだった。なんて思っている時点で、答えは出ているだろう。