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 唇が離れた時、漸く息ができるとばかりに私は荒い呼吸をした。キスをしている間、息を止めていたのだ。対するレオナ先輩は呼吸の方法も熟知しているようで、呆れたように片手を後頭部の方へやった。

「そんなんで俺と結婚できるとでも?」

 びくり、と私の体が跳ねる。レオナ先輩とは付き合っている。でも私達は所詮学生だし、そういったことを考えるならレオナ先輩の身分はどうしても考慮しなければならない。レオナ先輩が当たり前のように私との将来を考えているのが意外だった。だとしても、付き合って間もない今に言わなくてもいいだろう。何故キスから結婚の話になるのかわからない。

 レオナ先輩は面倒そうに目を閉じ、低い声で語りだした。

「例えばの話だ。第一王子が死んで俺が次期国王になったとする。そうしたら世継ぎの父親は俺だと証明する必要がある」

 それはレオナ先輩のお兄さんに不幸があった場合の話だが、まあありえなくはない。しかし、何故それが私とのキスの話に関連するのだろう。話の先を読み取れない私にしびれをきらしたように、レオナ先輩が言った。

「側近に見届けられながら事を済ませられるかってことだ」

 事、とはつまりキスよりもっとすごいことだ。一国の王子を作るのならば、それくらいしなくてはならない。改めて私はすごい人と付き合っているのだと思った。

「私、頑張ります」

 たとえそうならなかったとしても、レオナ先輩についていきたい。レオナ先輩は目を伏せた後、面倒そうに頭をかいた。

「まあ俺が第二王子である以上は心配ねぇよ」

 その投げやりな言い方が、少し寂しくなる。私はレオナ先輩が国王になった時のためではなく、レオナ先輩ともっとむつみ合うために頑張ろうとしているのだけど。と思ったけれど、口に出す勇気はない。私は唇を小さく噛んだ。