▼ ▲ ▼

「忘年会の景品、よかったら交換してくれませんか。俺、ずっと加湿器欲しくて」

 忘年会の終わり際、赤葦さんは小さな箱を差し出した。赤葦さんが当たったのは何だったか、私は覚えていない。けれども私が当てた加湿器に執着がないのは確かだ。

「別にいいですけど……」

「ありがとうございます」と言って赤葦さんは私の手に箱を握らせた。加湿器はそれほど値の張るようなものではなかったが、中には欲しい人もいたのだろう。私は家に帰り、赤葦さんから貰った箱を開けた。

「うちの企画部は優秀だと思うんですよ。誰が当たってもいいように、明らかに女物のブランドを景品に混ぜない」

 翌週、私は会社へ向かう道すがら赤葦さんに並んだ。結論を先に言わないのは、それを口に出すことに少なからず抵抗があるからだ。

「つまり?」

 白い息を吐きながら、赤葦さんは横目で私を見る。私は赤葦さんの方を向いた。

「赤葦さん、あれ自分で用意したでしょう」

 男女ともに参加する忘年会に、女性用のアクセサリーが紛れているとは考えづらい。それも、結構値の張りそうな代物だ。赤葦さんは自分からのプレゼントを景品と偽ったのではないか。赤葦さんは疑いをかけられても平然としている。

「名探偵みたいですね」

 その言葉で、私の予想は的中していたのだと気付いた。

「普通に渡してくれればいいじゃないですか!」
「ただのクリスマスプレゼントじゃ受け取ってくれない気がして」

 それは、確かにそうだ。私は口ごもる。

「お返しとか何も用意してないですよ」

 そもそも、もうクリスマスは終わっている。今から用意しようにも、貰ったものに見合うだけの品を見定められるだろうか。

「加湿器は受け取りましたよ」

 私は赤葦さんを訝しむように見る。

「本当に欲しかったんですか?」

 赤葦さんは小さく笑い、からかうように言った。

「まあ、今度あなたに加湿器を見に来てもらう理由くらいにはなるかと」

 赤葦さんは、私を自宅に誘っている。そのことがどうしようもなくくすぐったい。隠さない好意というものは、これほどに私を思春期のようにさせてしまうものだったか。

「加湿器見に行くって何ですか。せめてルームシアターくらいないと」
「それは苗字さんが当ててくれなかったんでしょう」

 小さな言い合いをしながら、私達はオフィス街を歩いていく。忘年会からの様子を見ていた同期に、赤葦さんと付き合っているのかと聞かれたのはまた別の話だ。