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「忘年会の景品、よかったら交換してくれませんか。俺、ずっと加湿器欲しくて」
忘年会の終わり際、赤葦さんは小さな箱を差し出した。赤葦さんが当たったのは何だったか、私は覚えていない。けれども私が当てた加湿器に執着がないのは確かだ。
「別にいいですけど……」
「ありがとうございます」と言って赤葦さんは私の手に箱を握らせた。加湿器はそれほど値の張るようなものではなかったが、中には欲しい人もいたのだろう。私は家に帰り、赤葦さんから貰った箱を開けた。
「うちの企画部は優秀だと思うんですよ。誰が当たってもいいように、明らかに女物のブランドを景品に混ぜない」
翌週、私は会社へ向かう道すがら赤葦さんに並んだ。結論を先に言わないのは、それを口に出すことに少なからず抵抗があるからだ。
「つまり?」
白い息を吐きながら、赤葦さんは横目で私を見る。私は赤葦さんの方を向いた。
「赤葦さん、あれ自分で用意したでしょう」
男女ともに参加する忘年会に、女性用のアクセサリーが紛れているとは考えづらい。それも、結構値の張りそうな代物だ。赤葦さんは自分からのプレゼントを景品と偽ったのではないか。赤葦さんは疑いをかけられても平然としている。
「名探偵みたいですね」
その言葉で、私の予想は的中していたのだと気付いた。
「普通に渡してくれればいいじゃないですか!」
「ただのクリスマスプレゼントじゃ受け取ってくれない気がして」
それは、確かにそうだ。私は口ごもる。
「お返しとか何も用意してないですよ」
そもそも、もうクリスマスは終わっている。今から用意しようにも、貰ったものに見合うだけの品を見定められるだろうか。
「加湿器は受け取りましたよ」
私は赤葦さんを訝しむように見る。
「本当に欲しかったんですか?」
赤葦さんは小さく笑い、からかうように言った。
「まあ、今度あなたに加湿器を見に来てもらう理由くらいにはなるかと」
赤葦さんは、私を自宅に誘っている。そのことがどうしようもなくくすぐったい。隠さない好意というものは、これほどに私を思春期のようにさせてしまうものだったか。
「加湿器見に行くって何ですか。せめてルームシアターくらいないと」
「それは苗字さんが当ててくれなかったんでしょう」
小さな言い合いをしながら、私達はオフィス街を歩いていく。忘年会からの様子を見ていた同期に、赤葦さんと付き合っているのかと聞かれたのはまた別の話だ。
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