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 銀さんは誰に対しても平等だ。誰に対しても馴れ馴れしくて、そのくせ腹の内は見せない。月詠さんやさっちゃんのような美人と親しくしても手は出さない。銀さんは無意識の内に、あるいは意識的に周りとの一線を引いているのだろう。銀さんと一晩の過ちを犯すようなことがあれば、それが銀さんと関わる最後の時になると思っていた。ところが現実は、そう予想通りに行かないらしい。

 馴染みの居酒屋に行くと、「よ」と銀さんが片手を挙げる。私は新八君や神楽ちゃんとも親しい仲でありながら銀さんと寝たのに、銀さんは自分の輪の中から私を追放しない。なかったことにしてくれるのだろうか。心の深い所では誰も寄せ付けようとしない銀さんが私に隣にいることを許すことは、想像に難しい。

 私だけ切羽詰まった様子で酒を飲む。すると隣から手が伸びて、私の手に重なった。反射的に銀さんを見るが、銀さんは長谷川さんと話している。私に構う暇はないようだ。ならばこの手は何なのか。銀さんのことが、まるでわからない。

 結局私は銀さんに距離を詰められ、体に触れられ、居ても立っても居られずに居酒屋を出た。夜風が上気した頬を冷ます。名前を呼ばれて振り返ると、銀さんが千鳥足で「送っていく」と言った。送られる必要があるのは、どちらなのだろうか。

 銀さんはとりとめのない話を続けた。ここまで酔っているなら、私を送ってそのまま家で致すということもないだろう。安心するような残念のような気持ちになりながら、私は白い息を吐く。

「銀さんは、あんなことがあったのに何で私に構おうとするんですか」

 何の婉曲もない、直球な質問だった。銀さんはずっと動かしていた口をしばらく閉じると、「相変わらず鋭いねェ」と言った。

「銀さんは、誰にでも親しくするけど誰か一人と奥深くまで関わることはしないじゃないですか。でも私とは、一線を超えた。なのに何で、私を突き放そうとしないんですか」
「そこまでわかってて何で答えに辿り着かないかなァ」

 銀さんは後頭部を掻きながら夜空を見上げる。答えは空にでもあるのだろうか。私は相変わらず銀さんの横顔を見た。

「もう自分の線の中に入れるって決めちまった奴となら、関わるのなんざ怖くねェんだよ。もっと自分の側に寄せたくなるわけ」

 銀さんは初めて私の方を向く。多分私は口説かれているのだけど、銀さんが酔っているせいであまり締まらなかった。

「要するに、私と付き合いたいということでいいですか」
「口説いてる最中に『要するに』って言葉使うのやめない?」

 話している内に私の家に着いて、銀さんは「じゃ、そういうことで」と言って去ってしまった。そっちこそ、口説くなら最後まで口説いてほしい。