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 私の無断外泊は、教師のみならず生徒にも知れ渡っていた。当然、彼氏である恵はいい顔をしない。恵は私を自分の部屋へ連れ込むと、音を立ててドアを閉めた。

「服脱げ。浮気してたかどうかは体を見て確かめる」

 まだ何をしていたかも言っていないのにこの言いようだ。愛されていると思えばいいのか、信頼がないと思うべきなのか。私は断じて浮気などしていないが、恵の調べ方には異議があった。

「キスマークつける相手とは限らないじゃん」

 わざわざ跡を残す相手ではないのなら、体を調べても何も出てこない。恵は、浮気調査にかこつけて私の体をまさぐりたいだけなのではないか。咎めるような視線を向ける。恵は、独り言のように言った。

「虎杖ならつける」
「え?」
「お前が浮気するなら虎杖しかいないだろ」

 そう語る恵は真剣そのものだった。私が無断外泊している間、虎杖が任務などで外に出ていたのかどうかは知らない。それでも恵は、私の第二の男は虎杖しかいないと思っているのだ。今まで一体どんな気持ちで、一年生三人で過ごしてきたのだろう。恵はずっと、虎杖との信頼の裏に渦巻いた感情を抱えていたのだろうか。私は、ずっと恵に我慢させていたのか。急に切ない気持ちになる。私が脱いで、キスマークがなければ恵は満足するのだろうか。虎杖ならつけるという、痛いほどの理解の上で。

 私がするべきは、服を脱ぐことではないのかもしれない。虎杖とは何もないよ、と恵を安心させてあげることが最適なのだろう。それでも恵は満足しない。誰よりも虎杖を理解しているから、自分の目で見なければ信じない。私は服に手をかけた。素肌を見せて事に及ばないのは、痛く寂しいことであった。