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 凪くんの家に泊まることになったのは、成り行きと偶然だった。凪くんも私もその気になっていて、凪くんは心なしか積極的であるように見えた。「泊まれば」と言われた時の私は、感動と興奮でその後のことを考えていなかったのだ。

「着替え……どうしよ……」

 今から私の家に取りに行くのでは電車の時間に間に合うかわからない。いくら凪くんが自堕落な生活をしているとはいえ、二日連続同じ下着を身に着けて清潔感がないと思われたらたまらない。

 凪くんはクローゼットを開け、新品らしい衣類を一通り取り出した。

「玲王が使うことになるだろうからって買っておいてくれた」

 まだタグがついたままの女性用パジャマ、それから下着。サイズまで知られていたら少し怖いけれど、そこは流石玲王くんと言うべきかフリーサイズのようだった。

「じゃあこれ使わせてもらうね」

 私は凪くんから服を受け取ろうとする。ところが、凪くんは固まってしまったように動かなかった。今更お泊りが嫌になったのだろうか。私は不安な心持で凪くんを見上げる。

「レオが選んだ服着るの、嫌」

 私の胸の奥に、じわりと熱いものがこみ上げる。いつだって愛情表現に乏しくて、本当に私を好きなのかもわからなかった凪くん。その凪くんが初めて、嫉妬のような感情を見せたのだ。私は凪くんの顔を瞳いっぱいに映した。

「じゃあ凪くんが選んで……?」

 凪くんがスマートフォンを手にする。凪くんは「女性 下着」と調べ、通販サイトを開いた。その中で凪くんが選んだカテゴリは、セクシーではなくキュートだった。

 凪くんが今、私のために下着を選んでくれようとしている。私は心臓の鼓動を感じながら見守った。しかし、凪くんはふと目が覚めたように顔を上げた。

「今から買っても今夜までに届くわけないか」

 ショッピングの手段がオンラインというのは実に凪くんらしい。でも、実用性に欠ける。「コンビニ行こ」と手を握られ、私達は結局無地の地味な下着を買った。家に帰ってそれを見た凪くんは、つまらなさそうに目を細めた。

「今度からは俺が買っておくね」

 お泊りにまた「次」があるのだという確約を貰えて、私の心はまた跳ねた。