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「悪かった」

 教室の扉を開けるなり、佐久早はそう言った。

 二年とはいえ、部室を使わせてもらえないこともある。私の部活のように三年の人数が多ければなおさらだ。今日部活をしている人があまり少ないこともあり、私は教室で着替えていた。強豪の男子バレー部の、佐久早が教室に来ることなどすっかり考えないでいたのだ。

「好きな奴に見せたかったんだろ」

 佐久早がそう言うのは、今日がクリスマスということが関係しているのだろう。恋人と過ごす日。部活が終わった後のことを考えて、派手な下着をつけている人だっているだろう。私の下着を見て、佐久早は「派手」と見受けたらしかった。

「いや、誰にも見せるつもりはなかったっていうか……」

 私は彼氏のためにこの下着を選んだわけではないし、そもそも彼氏はいない。着替えを見た点では反省してほしいが、そこまであからさまに意気消沈しなくていいのだ。

「俺のためじゃなかったよな」
「本当に彼氏とかいないから!」

 佐久早があまりにもしつこいので大声を出すと、今度は咎めるような視線を寄越された。

「誰に見せるでもなくそんなんつけてんのか」

 別に、私がどのような下着をつけようとも私の勝手だ。そう思いつつも、なぜかきまり悪くなってしまう。

「ま、まあ佐久早に見てもらえてよかったかな……」

 折角のお気に入りの下着が誰の目にも触れないことよりは、こういったハプニングが起きた時きちんとしたものをつけていた方がいい。佐久早は目を伏せ、小さく呟いた。

「俺も見れてよかったよ」

 え、と言う前に、佐久早は教室を去ってしまった。教室に用があっただろうに、後ででいいのだろうか。呆然とその様子を見てから、私は慌てて服を着た。