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 南雲さんが大道芸のように変装を披露してくれた時、私の頭をよぎったのは不安に似た何かだった。

「南雲さんが今私に見せている姿も、変装なんですか?」

 南雲さんが、私に全てを開示してくれるとは思わない。それでも私は心のどこかで、南雲さんのことを知りたいと思っていたのだろう。私達が築いてきた関係性のようなものは全て虚構だったのだと思うと、酷く寂しい気持ちになった。考えてみれば、殺し屋をしている南雲さんと本気で通じ合える方がおかしいのだけど。

「うーん、本当の姿だよって言っても、多分名前ちゃんは全部信じないよね。僕、騙すの上手いからさ」

 南雲さんが嘘をついても、私はわからないだろう。南雲さんはある意味で不幸なのだ。私を信じさせたくても、私には真偽を判別する術がない。そんな人間相手に、南雲さんは足しげく通ってくれる。

 私が頷くと、南雲さんは一歩私に近付いた。昼だというのに、低い位置にある太陽が私に長い影を落とした。

「どこまで僕のことを知ったら僕を信じる? 僕の裸に触って、肌を引っ張ってみたら僕のことを認めてくれる?」

 南雲さんが本気で言っているのかわからなくなった。「なーんてね」とからかわれるのかもしれない。でも、南雲さんは黙り込んでいた。まるで私に誠実であろうとするかのように。それすらも、南雲さんの演出かもしれないけれど。

「そこまでしなくても、私はもう南雲さんを信じてます」

 私は南雲さんにアピールをしたかったのか、南雲さんが匂わせた夜の気配を退けたかったのかわからない。アピールをするほど南雲さんが好きなら誘いを受け取ればいいのに、おかしな話だ。南雲さんは目を丸くした後、からりと笑った。

「かわいそうに!」