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 指定された場所に行くと、佐久早は部活着で待っていた。吐く息が白く消えていく。私は控えめに歩み寄り、片手を挙げた佐久早の隣に並んでみせた。

「今って春高直前でしょ」
「そうだ」

 駅からやや離れた公園には人が少ない。特に通学路でもないだろう。ついでというわけではなく、わざわざ私に会うためだけに場を用意した。その意味を、今はあまり考えないようにする。

「コンディション整えていくから、俺のメンタルを乱すようなことは言うなよ」

 呼び出したくせに、佐久早は注文をつけた。そもそも何故今会っているのかもわからないまま、私は佐久早の方へ顔を向ける。

「乱すようなことって?」
「告白とかはやめろって意味だ」
「別にしようと思ってないし!」

 告白をしようとは思っていない、それは事実だ。しかし正確に言うならば「私から」したくないということであり、佐久早と付き合いたいという思いはある。そうでなければ、冬休み中にわざわざ学校の近くまで出向かない。

 私の大袈裟な返答を何と思ったのか、佐久早は声を低くした。

「今フラれたら試合に影響が出る」
「フってもないよ!」
「じゃあ好きなのか?」

 畳みかけるように言われ、私は言葉に詰まる。佐久早をフるわけがない。私は佐久早が好きだ。そう言おうとしたが、佐久早が冒頭に言ったことにそのままあてはまることに気付いた。そもそも、告白する勇気がないのだが。

 一人で百面相をしている私の横で、佐久早はベンチから立ち上がった。

「春高が終わったら聞かせて」

 これで帰るのなら、今日私と会った目的はただ話をしたいから、会いたいから、そんなものになってしまう。これでは、私の告白は成功が確約されたようなものではないか。

 私もベンチから立ち上がりながら、ふと思った。いつの間にか、私から佐久早に告白する流れになっている。こいつめ! と思ったけれど、試合前だということを考えて口をつぐんだ。文句は春高明けに沢山言ってやろう。そう決意をしながら。