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 初詣をする暇もなく、私は五条先生に呼び出された。元旦だからなのか、いつにも増して豪華な食事だ。今頃他の一年生は寮でスーパーのおせち料理を食べているだろうに、一人伊勢海老などを食べているのが申し訳なくなってくる。でも、私は五条先生の特別なのだという感じがして、少し心地いい。

 五条先生は一通り皿を平らげた後、「少し歩こうか」と言って店を出た。予約の段階でクレジットカードを登録してあるらしく、支払いに行く手間もなかった。私が少しは出させてくださいと言ったところで、五条先生は出させないだろうし、私に払える額などたかが知れているが。五条先生のそういうスマートな所を見るたびに、この人もきちんとした大人なのだと思う。

 新年の街は空いていた。初売りをしている店を冷やかして、五条先生は車を呼ぶ。私を先に座らせて、隣に腰を下ろした五条先生は、小さな封筒を寄越した。その形状で、中に入っているのはお金だとわかる。

「私達の付き合いってパパ活だったんですか?」

 思わず、声に出していた。生徒と教師だから、今まで関係性は言葉にしてこなかった。それでも、お互い好きだと思っていたのは私だけだったのだろうか。五条先生も驚いた様子で、私の方に体を向ける。

「違うよ!? 何で!?」
「だってご飯食べた後にお金渡すから……」

 今までこうしてお金を渡されることはなかったけれど、考えてみたら私では到底払えない額の料理をご馳走されることでパパ活になっていたのかもしれない。考え込む私をよそに、五条先生が宥めるような声を出した。

「これはお年玉でしょ」

 そういえば、今日は元旦なのだった。五条先生は年上だから、渡されてもおかしくはない。しかし私の五条先生を好きだという心が、また厄介な感情に火をつける。

「じゃあ子供扱い!?」

 面倒くさい反応をする私ごと包み込んで、五条先生は芝居がかった口調で言った。

「大事な大事なお姫様」

 本当に、私の扱いを心得ている。私達は胸を張って恋人だと言える関係でもなければ、お年玉をもらうほど歳も離れているけれど、私達の間にある感情は本物だ。五条先生の腕の匂いを嗅ぐ。何もかもを忘れてしまいそうな、夢の中へと行けそうだ。