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 ああ、まただ。スマートフォンに何度も入る着信履歴を見て、私のストーカー被害が止まないことを知った。始まりは数か月前だった。届いているはずの郵便物がない、ということから始まり、最近ではつけられているような気配もする。警察がこれだけで動くとも思えず、私は途方に暮れている。噂をすれば何とやら、またしても電話がかかってきた。私のスマートフォンに非通知で着信を寄越すような人はいない。

 切ってもまた刺激してしまうだろうからと思い悩んでいると、不意に私の後ろから手が伸びた。その手はスマートフォンをかっさらい、また元の方へ引っ込んで行った。

「もしもし? 君、名前ちゃんのストーカーしてるよね。ああ、悪いとか言ってるんじゃないよ。そうやってしか名前ちゃんにアピールできないの、すごくピュアだなあと思ってさ。君、彼女できたことないでしょ」

 背筋が凍り付くのを感じた。声からして、私のスマートフォンを奪ったのは南雲さんだったのだろう。しかし、南雲さんはこうやってあからさまに相手を挑発する人だっただろうか。いつでも飄々として、のらりくらりと相手をかわすのが南雲さんではなかったか。

 案の定、ストーカーは大激怒していた。お前男がいたのか、覚えとけよ。家知ってるんだからな。それが初めて聞いたストーカーの声だった。一方的に電話は切れ、南雲さんは私に心配そうな表情を見せる。

「家まで知られてたんだ」

 どくん、と心臓が音を立てる。ストーカーのせいではない。目の前で親切そうな顔をしている、南雲さんに対して。

「うち来てもいいよ。ていうか、危ないからおいでよ」

 南雲さんはまるで聖職者のような声色で言った。南雲さんのしていることは、紛うことなき親切なのだろう。しかしそのトラブルの原因は、南雲さんにある。南雲さんがストーカーを挑発しなければ私は今日も家に帰ることができたはずだ。

「ありがとうございます」

 私は乾いた声で言った。そうしなければ、ストーカーを怒らせるよりも怖い展開になるのではないかと思った。もはや私の頭の中にストーカーへの恐怖はなく、南雲さんへの不気味さが色を濃くしていく。

「じゃあ、ご飯何食べようかなぁ」

 楽しそうに歩く南雲さんの後ろを、私はそっとついて行った。