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「待ち人来る」
おみくじの恋愛欄を見た時、私ははてと首を傾げた。今年二十七歳の、年女とも言えない微妙な歳。そろそろ結婚も意識してきて、誰かいい人が現れるのでは、と期待してのみくじだった。
ところが、私に新しい出会いはないという。むしろ示唆されているのは、過去の出会いだ。私が待っている人。今でも待ち焦がれているわけではないが、一人該当があった。「待つ」と言えば彼を思い浮かべるような、運命を呪ったような恋が。
「その時思い出したのが及川で、最悪だったって話」
「奇跡の再会を果たして言うことがそれ?」
彼――及川はグラスを手に持って言った。真冬だというのに冷たいコーヒーを頼むあたりが、及川との価値観の違いを感じる。きっと及川にとって一月は夏で、今いる場所は故郷というよりかは滞在地なのだろう。すぐに帰る。及川は出会い頭にそう言っていた。
「ていうか、そのおみくじ凶だったの、大吉だったの」
「末吉」
「何だよそれ。俺と会えるなら大吉だろ」
及川はコーヒーを飲んだ。結局及川と会えているのなら、今年の運命は吉なのだろうか。後に別れなければならないのだから、凶でもある気がする。でも、私は高校三年の時のように泣きじゃくったりしないだろう。時の流れが私を大人に変えてしまった。及川ともうあの頃のような恋愛はできない。それでも、及川に日本にいてほしいと思ってしまうのは、あの頃痛烈に願っていたことの名残か。
「及川が日本に帰ってきて一般就職するくらいじゃないと大吉とは言いません」
「あはは、そりゃ無理だ」
及川にアピールするというよりあの頃の苦々しさを晴らすように言うと、及川は一笑した。私よりバレーが好きであるのは、あの頃も今も変わってないらしい。及川はグラスを空にし、立ち上がって私に背を向けた。
「大吉以上の成果出すから見てなよ」
私はまだ、バレー選手としてなら及川を好くことを許されている。何の名残もないように去って行く及川を、私はぼうっと見ていた。
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