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 五条先生は、何かとものを与えたがった。それ以外に愛情表現を知らないわけではないのだが、一番手っ取り早い方法として、お金をかけることを選んでいるのだろう。その五条先生が、年に一度のイベントを見逃すはずがなかった。

「こんなに貰えません……」
「いいのいいの」

 五条先生が差し出しているのはポチ袋だ。袋こそ辰の絵がついた可愛らしいものになっているが、中身はとんでもない。ポチ袋にあらぬ厚みで中の金額を示唆している。五条先生のことだから、全て一万円札なのだろう。

 五条先生から高級なものを貰わない、ということは既に諦めた。この人に好かれてしまった以上、それは不可能に近い。けれどお年玉という、直接現金を渡すイベントにおいては流石に気が引ける。私がお年玉をあげる番になったら、到底同じ額を出せないだろう。

「いつか五条先生に子供ができても、私はお返しできません」

 私は泣き出しそうになりながら言った。純粋に将来の私の生活を心配してか、それとも五条先生が他の誰かと結婚する未来を嘆いてか。五条先生の好意を退けながらもいい気になっていたのは、私だったのだ。

「それなら大丈夫だよ」

 五条先生は、いつもの悠然とした笑みを浮かべた。私の頭に一つの可能性が思い浮かぶ。

「一生独身のつもりですか?」
「その逆」

 私はますますわからなくなった。結婚するつもりがあるなら、半分くらいの確率で子供を持つだろう。そうしたら、私はやはりご祝儀やお年玉をあげなくてはならない。その時、私が今の五条先生ほど稼げているとは思わない。

「とりあえず、あと四年は我慢かな」

 そう言った五条先生はポチ袋を人差し指と中指で挟んで、私の鞄に入れた。あ、と思った瞬間に五条先生は手を挙げて去ってしまう。その動きはまるで、将来の約束のようでもあった。