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 いくら冬でも、一日外回りをしていれば汗をかく。それに加えて、強風や乾燥に晒された私のヘアメイクは悲惨だ。
 深夜零時、おぼつかない足取りで自宅のドアを開けると、そこには彼氏である聖臣が仁王立ちしていた。疲れた私をねぎらうため、ではない。

「一日大変だったな。無理せず休め」
「言ってることとやってることが逆じゃない?」

 聖臣は、私が外のベンチやら電車のシートやらに座ったスカートで自宅のベッドに腰掛けることを許さない。口でこそ聞こえのいい言葉を吐いているが、聖臣がやっていることと言えば私を風呂に押し込むことだ。下手をしたら服を着たまま浴室に入れられそうである。聖臣は、外で汚れた服を一枚一枚脱がせてくれるような甘さを持った男ではない。

「風呂に入らないまま俺のベッドに入るのは許さない」
「じゃあソファでいい」
「それもダメだ」

 もう疲れて、シャワーを浴びる気力もない。そのままベッドで寝ることも許さなければ、ソファで眠ることもダメだと言う。優しいのかそうでないのかわからない。

「ぐだぐだしてると俺が洗うぞ」
「え……」

 それは、お誘い的な意味だろうか。期待を込めて振り返った私の瞳に映ったのは、汚物を見るかのような聖臣の表情だった。

「俺は不潔な奴に欲情しない」

 聖臣は至って事務的に、まるで車を洗うように私を洗おうというのだ。これには少し傷付いた。若い男性にそんなことができるのかとも思うが、聖臣ならやってしまえるという信頼がある。聖臣の理性は、ちょっとやそっとでは揺らがない。

「自分で洗います」

 脱衣所に到着して私が服を脱ぐと、聖臣がドアを閉めた。風呂上りに甘い展開になるかと言えば、「そんなに疲れてるなら早く寝ろ」と言うのだろう。優しいのか意地悪なのかわからない奴だ。