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「メール教えてくれてありがとう。私佐久早くんのことが好きなんだけど、佐久早くんの好きなものとか知ってる? 古森くんも協力してくれたら嬉しいな」

 そんなメールが送られてきたのは、昼休みも終わるかという頃だった。問題なのは、受け取っているのが古森ではなく佐久早ということである。さらに悪いことにと言うべきか、メールアドレスの文字列で送り主が誰かは大体わかってしまった。佐久早と同じクラスの女子である。視線をやれば、彼女は大事そうに携帯電話を握りしめていた。

「おい、何がどうなってる」

 部活が始まる前、佐久早は真っ先に古森を訪ねた。古森は楽しそうな顔で笑った。

「だってその子明らかに聖臣目当てだったんだもん。この方が早いじゃん」

 確信犯だ。からかわれているような気持ちになりながら、佐久早は部室への道を歩く。

「勘違いされたままだろうが」
「聖臣がメアド初期のままから変えないのが悪いんだろ」

 それは確かにその通りだ。佐久早が自分の名前を入れたメールアドレスなどにしていたら相手の女子だって古森ではなく佐久早のアドレスだと気付いたかもしれないが、現状佐久早のアドレスはランダムな英数字である。これで気付くことは難しい。

「好きなものは君だよ、って返信してみたら?」

 からかわれている。佐久早は努力して真面目な表情を作り、これからの方針を考えた。

「とりあえず、改めて俺とアドレスを交換させる。それで気付いてもらう」

 佐久早が自分で正体を明かすことはできない。どういう風に言ったらいいかわからないし、仮にそれで泣かれでもしたら困ってしまう。なんとか彼女の方に、自分で気付いてもらう。

「女の子の告白をスルーするわけ?」

 古森の声色は引き続きからかうようなものだったが、今回ばかりは佐久早も言葉に詰まった。彼女の気持ちが本気だとわかっているからこそ、見ないふりをするのは良心が咎める。

「また別で告白してもらえばいいだろ」

 佐久早が言うと、「モテる男は違うねー」と古森が冷やかした。古森の方が告白を受けているくせに、と思ったが、部室に着いたのでそれ以上何も言わなかった。