▼ ▲ ▼

 突然現れたそいつは、ミニオン島での出来事を知っていた。当時海軍であったそいつの父親は、政府がオペオペの実を手に入れたら能力者となる予定だったらしい。当然ながら、今おれがオペオペの実の能力者となっているのだからそいつの父親は能力者にならなかった。彼は非能力者として任務を続けたが、半年後の任務で殉職したらしい。おれがオペオペの実を食べていなければ、救われたかもしれない命だ。

「で、憎きおれに会いに来たってわけか」

 おれが一瞥すると、そいつは島の木に背を預けて三角座りをした。余裕があるのか、危機感がないのか。よくわからない奴だ。

「そんなんじゃなくて、オペオペの実の能力者はどんな人かと思って」

 そいつはおれをじっと見る。おれも視線をそらさずにいる。やがて、そいつは子供のように笑った。

「うん、トラファルガー・ローでよかった」
「そうかよ……」

 おれはこいつとおれの運命に思いをはせる。こいつは、少なくともおれを父の後継として――あるいはあったかもしれない父の姿として気に入っているのだろう。でも、おれは海賊だ。海軍とは交われない。いくら感傷的になろうとも、この先に待っているのは戦いや死なのだ。もっとも、こいつはそこの所が緩そうだからおれを見逃してしまうかもしれないが。

「思い出話はこれくらいにしてさっさと捕まえたらどうなんだ。おれはすぐ逃げるぞ」

 こいつが海軍を裏切るような真似をすれば、死んだ父親も悲しむだろう。そいつは何を思ったのか、きょとんとした顔でおれを見上げた。

「私、海軍じゃないけど」
「は……」

 情けない声が出る。今のは、どう考えても父親の意思を継いで海軍に入っている流れだっただろう。

 そういえば、こいつは制服姿ではない。もっと早くに気付けばよかった。どうしてロミオとジュリエットのような――非業の運命に自分達を重ね合わせていたのだろう。いや、恋愛的に見ていたわけではないが。おれ達の心には、通じ合う部分があった。

「一般人がこんな島一人で歩いてんじゃねェ。早く帰れ」
「うん。どうしてもトラファルガー・ローに会いたくて」

「絶対に結ばれることのない」と思っていたからこそ、背反するように燃え上がる何かがあったのだろう。おれはこいつのことを何とも思っていないはずなのに、その言葉に僅かに揺らいだ。

 溜息をついて心を鎮めた後、おれはそいつが無事帰宅できるまで送り届けることにした。恋なんかではない。奇妙な運命のせいだ。