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 現在の桂の拠点にて、私は桂と作戦会議をしていた。桂小太郎と言えば伝説の攘夷志士だ。穏健派と言われはしているが、現在も牙を研ぎ澄ませている。桂とフリーの剣士である私が知り合ったのは、攘夷志士を通してのことだった。桂が真選組に仕掛けるトイレットペーパーを全て逆にするという作戦に、私も乗じるのだ。血の一滴も滴りそうにないこの作戦に何故私が必要なのかは不明だが、成功すれば仲介人から報酬が貰えるので協力することにする。多くから追われているだけあり、桂の家は夜だというのに薄暗かった。きっとこの家も期間限定のものなのだろう。話が終わったら、私も気配を消して出なければならない。その時、突然扉が開く音がした。

「ヅラ、いるか?」

 私は刀に手をかけたまま音のした方を見る。どう考えても追われる者の挙動ではない。かと言って、桂を襲いに来たという風でもなさそうだ。桂は何もせず腕を組んで待っている。見た目は一般市民のようだが、桂にとって身内かどうかもわからない。作戦や正体をバラすわけにはいかない。

「おーいヅラ、って誰? その女」

 男の視線が私に移ったのを見て、私はそばにあった布団に足を突っ込んだ。

「見てわからない? 桂さんのセフレ」

 これが一番当たり障りないはずだ。攘夷志士など、各地に女がいることだろう。ところが男は大声を出して驚いた。

「セフレ!? ヅラの!? オイ嘘だろヅラお前そんな軽い恋愛できたの!?」

 桂と話すのは今日が初めてだが、桂はそんなに堅い男なのだろうか。一度言ってしまった手前引き返すこともできず、私は桂の胸板に顔を擦り寄せる。

「そうよ、私はあなたの知らない桂さんを沢山知ってるんだから」
「んなこと言ったってコイツ堅物だからね!? 結婚までは手出さないタイプだから」
「そんなに疑うなら今から見せましょうか」
「やめろーー! 正直アンタの裸は見たいけどヅラのケツとか見たくねーから! 昔馴染みのセックスとかトラウマもんだから!」

 男は頭を抱えて走り去って行った。設定に齟齬が生じたようだが、なんとか撒けたようだ。私は息を吐いてから桂を見上げる。セックスフレンドのふりをしたせいで、随分近い位置に桂の顔があった。

「……それで、俺とニャンニャンしてくれるというのは本当ですか」

 頬を染め畳を見つめる桂に、私の心が白ける。どうやら、恋愛に初心だというのは本当だったようだ。男を撒くためについた嘘が本当になると思っているのだから。私は無言で立ち上がった後、桂の家のトイレットペーパーを逆さまにして帰った。