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「あ〜あ、宝くじ当たらないかな」

 隣の席の苗字は退屈そうに呟いた。井闥山学院は言わずと知れた部活動強豪校だ。バイトをしている生徒より、部活に励んでいる生徒の方が多い。苗字もその一人で、バイトをする時間もなければお金もないということなのだろう。

「運に任せないで日頃から努力しろ」

 俺は短く言い放った。俺は苗字が、日頃細かな買い物――部活帰りにコンビニでチキンを食べていたり、教科書を忘れて友人にコピーさせてもらっていたり――をしていたことを知っている。決して監視していたわけではないが、苗字の行動というのはこう、俺の目に映りやすいのだ。

「お金以外も?」

 苗字が俺を見上げる。さら、と髪の毛がなだれ落ちた。部活の時は一つにまとめている髪の、流れるような動きを見られるのは同じクラスで過ごす特権だ。

「何でもだ」

 そう言うと、苗字は俺に身を寄せた。嫌と言うより、教室なので誰かに見られたら恥ずかしい。

「何だよ」

 俺が思春期のような声を出して言うと、苗字は反抗するように呟いた。

「努力」

 だから一体、何の努力だ。そう言おうとして、これは俺を意識させるためにやっているのだと気付いた。作戦は大成功だ。苗字は俺の言う通り、いきなり成就させることではなく日々少しずつ前進させることを選んだのだろう。

 しかし、これは。俺は顔面を手で覆いたくなるのを我慢した。自分で言っておいてなんだが、いっそ一思いにかたをつけてほしい。俺はこのもどかしさに、いつまで耐えればいいのだろう。