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 ブルーロックでの僅かな休みの間、凛は幼馴染の名前と待ち合わせた。お互いもう思春期にさしかかる年齢だ。自宅の自室で会うのはどこか照れくさく、近くのファストフード店を指定した。だが、そんな配慮は不要だったのではないかと思うくらい、名前は自然体だった。

「手ぶらってなんだよ」
「え、別にいいかなって」

 待ち合わせに現れた名前を前に、凛は思わず毒づいた。幼馴染だからと言って、油断しているのだろう。普通もう少し、異性とのお出かけに関心を払うものではないだろうか。異性と認識されていないのでは、と思うと心の中で何かが燻る。

「スマホ決済は入れてるよ?」

 スマートフォンを持ち上げてみせた名前にすぐさま返す。

「そこは俺が出すからいいんだよ」

 凛が言いたいのは、財布を持てということではない。凛は名前と外食する場合、名前に財布を出させるのでは恰好がつかないと思っている。だからと言って、それにあぐらをかかれると反抗心を抱くのだが、結局は凛が出すだろう。この場合名前に支払う気はあるようだが、他に意識するものがあるだろう。

「女子ならあるだろ、ハンカチとか、化粧品とか」

 こういうことを言わせるな、とでも言いたい気持ちで凛が口にすると、名前はどうでもよさそうに店へ歩き出した。

「凛が持ってるからいいかなって」
「俺は化粧品なんざ持ってねぇ」
「凛がいれば私何もいらないもん」

 それは、凛がしっかりしているから、凛と一緒にいれば持ち歩くものはないという意味だったのだろう。だが凛は仮にも思春期で、自覚は薄いが名前に恋をしていた。そんな言葉を言われれば、凛はたちまちほだされてしまうのである。

「仕方ねえな」

 流石に化粧品は持ち歩けない。でも、ハンカチくらいなら、名前の分も持ってやるか。そう考えている凛は、随分単純である。