▼ ▲ ▼
関係者席に座ると、試合後選手が挨拶をしてくれることがある。場合によっては、選手の控室に行って選手と話すこともできる。私と宮さんが知り合ったのは、そういったきっかけだった。
MSBYブラックジャッカルの内輪での飲み会にて、宮さんは私の隣に座る。少しずつ酒を飲みながら、まだ判断力が残っているとわかる表情で彼は言った。
「何で俺が名前ちゃん口説くかわかる?」
私は頭を振った。宮さんが女好きだということは、なんとなくわかる。その中で何故私なのだろう、とは常々考えていたことだった。宮さんの人間関係を考えたら、私など後々面倒なことになりそうなのに。
宮さんはグラスをテーブルに置き、甘い目で私を覗き込んだ。
「名前ちゃん口説くと、名前ちゃんやなくてこっちにせいって臣くんが女あてがってくれるからやで」
その目が見ているのは、私ではなく他の女性だった。
「名前ちゃん一筋みたいな顔して女何人でも呼べんの、俺よりよっぽど遊んどると思わん?」
私達の間に静かな沈黙が流れる。私を関係者席に呼んだのは、佐久早くんだ。私は佐久早くんの親しい人という間柄でチームのメンバーと知り合った。いつも私に過保護な佐久早くんは、宮さんが私に構うとすぐに引きはがす。宮さんはそれを狙って私に近付いていたのだ。
案の定と言うべきか、佐久早くんが私と宮さんの間にずいと体を滑り込ませた。
「大丈夫だったか。宮に何もされてないか」
その瞳は真剣そのもので、とても遊んでいる人には見えない。けれど、宮さんを私から退けるために、たくさんの女性の連絡先を知っているのだという。
「あ、うん……」
その時初めて、私は佐久早くんを怖いと思った。佐久早くんからの私への気持ちは痛いほど伝わってくるのに。守られているはずなのに、背筋にどこか冷たいものが走る。宮さんと口喧嘩をしているその中で、いつ他の女を呼ぶのだろうと恐ろしい気持ちになった。
/kougk/novel/6/?index=1