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 親ぐるみの付き合いのある幼馴染というものは、なんとも難儀なものだ。

 まず、凛の両親が二人揃って帰省することになった。ここまでは別にいいだろう。凛はもう十六歳だし、体格もいい男の子なのだから何かあっても自分で対処できる。だが、偶然にも私の親の出張が決まった。日にちは凛の親の帰省と同じだ。女の子一人で何かあったら危ないから、というのが双方の親の意見だった。子供一人きり同士、「幼馴染だから」という理由で私達は一緒に過ごさなければならなくなったのである。

「何で二人きりで一晩過ごさなきゃなんねぇんだよ……」

 久々の糸師家のリビングにて離れた所に座る。凛は不満げだ。幼馴染と言ったって、性別を意識せずに付き合えるのはせいぜい小学生までだろう。私達は思春期にさしかかっていて、お互いのことを良くも悪くも意識しているのだ。凛は苛立ちへ、私は動揺へ、それぞれその意識が表れていた。

 凛には大変申し訳なく思う。でも一晩だけだから、どうにか我慢してほしい。そう思っていた時、唐突にドアの開く音がした。この部屋にいるのは、私の他にソファに座っている凛だけのはずだ。

「思ったより平気そうだな」

 部屋の入口にいたのは冴だった。冴に限って凛が一人きりでいることを心配することはなさそうだから、偶然帰国の日程が重なったのだろう。もしかしたら、私と凛の二人きりの状況を心配してということはあるかもしれないが。凛は、先程から眉間に寄っていた皺をさらに深くした。

「出てけ」

 凛と冴の仲が悪いことはなんとなく知っている。でもそれ以上に、凛は私と二人きりでいることが嫌ではなかったのか。

「二人きりを脱出できるんだよ!?」

 私は凛に訴えかけた。凛にとっては、冴は生まれながらの家族だ。私と二人きりよりよほどいいだろう。

「へー、お前らヤるところだったのか」

 何をどう勘違いしたのか、冴は無表情に言い放った。一体この光景のどこがそう見えるのだろう。

「だったら悪いかよ」

 凛は冴の言葉に乗っかっている。先程まで二人きりを嘆いていたくせに。全くそんな気配はなかったではないか。

「全然そんなことない!」

 こうしている間にも、二人の視線には火花が散っている。凛と二人きりの方がよかった、なんて誤解されてしまうことを思うくらいには、私は焦っていた。