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 研磨から電話があったのは突然のことだった。しかし、報道が報道であったために、私はなんとなくその内容を察知していた。

「もしかして、名前流出させた?」

 研磨は、人気ユーチューバーの過去として学生時代の写真を流出されていた。しかもその写真は、恋人と寄り添っているようなものだったのだ。恋愛に疎そうなキャラクターだっただけに、ネットはお祭り騒ぎだった。過去に付き合っていた私に研磨の目が向くのも、まあ仕方ないことと言える。

「してないけど、何で?」

 私が言うと、研磨は当然であるかのように言った。

「俺今まで付き合ったこと名前としかないから」
「うそ! そんなの知らなかった!」

 研磨が学生時代、あまり活発でなかったことは知っている。だからこそ私は研磨と付き合っていたとも言えるのだが、まさか著名人となった今もそうだとは思っていなかった。

「言ってないから」

 羞恥も照れも感じさせない声色で研磨は述べた。この分なら、女性経験は私しかないことも平気でリスナーに言ってしまいそうだ。それはそれで困る。

「お祝いにランチしよう」

 何のお祝いか、と言われたらすっかり擦れていると思っていた研磨が純粋だったことに尽きる。研磨と復縁を望んでいるわけでもないのに食事に行くのは失礼だ、と言われるだろうか。一度寝るくらいなら構わない。そう思っている私の方が擦れているのだろう。

「どうせならディナーにして」

 そう言う研磨もまた、同じ想定をしているのかもしれない。研磨は擦れたのではなく、今も昔も変わらない。心を許した人にだけ、距離を詰める人なのだ。今回写真が流出したのは研磨だったが、私もまたその覚悟が必要だろう。そう思わせる、芯の通った声だった。