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 凪くんが好きだということを、初めて人に相談した。その相手は女友達ではなく、幼馴染の玲王だった。玲王は特に驚いた様子もなく、静かに頷いた。それから、私の背を叩いて言った。

「俺に任せろ!」

 行動力の化身である玲王に話した時点で、こうなることはわかっていた。奥手な私には、玲王の強引な手がなければ恋を成就できないのだ。玲王は凪くんと仲がいいから、自然と二人きりにしてくれたり、凪くんと三人で話す場を設けてくれたりするのだろう。

 私はすっかり忘れていたのだ。玲王が普通の範疇におさまるべき人間ではないことを。

「文化祭の出し物だけど、劇はどうだ!? ロミオとジュリエット、ジュリエットは名前で」

 ホームルームで玲王がそう言いだした時、私は卒倒しかねない勢いだった。いくら何でも無理やりすぎるだろう。いや、凪くんと恋仲を演じられるのは嬉しいけれど。

 私は玲王を引っ張り出し、廊下で向かい合った。玲王は私に引かれながらも、「他の配役も考えてあんだ」とクラスメイトに語りかけていた。話は既に進んでいる。

「文化祭を私物化するつもり!?」

 私の責めるような声にもめげず、玲王は褒められ待ちの犬のように笑った。

「俺の案ならみんな賛成してくれるだろ」

 確かに、玲王はそれだけの人望がある。私が劇の主役など公平な話し合いでは絶対に出てこない案だが、玲王が言えばみな従うだろう。

「だとしても凪くんが主役なんて受けてくれるかな……」

 問題は、目立つのを嫌いそうな凪くんがロミオ役を引き受けてくれるかどうかだ。私がジュリエットをしても、凪くんが裏方では意味がない。私の肩に、玲王の手が置かれる。

「名前がジュリエットだって言ったら、凪やるってよ」

 私は呆気にとられたまま玲王を見ていた。私の知る限り、凪くんは目立つことを嫌う人だったはずだ。それが、玲王の言う通りならば「私がジュリエットをやるから」ロミオをやるなら、凪くんは既に私に気があるのではないか。「ならいいよな?」と言って教室へ戻ってしまう玲王を見送り、現実をひしひしとかみしめる。

 私の恋は、もう実っているかもしれない。私はこれから、私のことを好きかもしれない人と恋人役をしなくてはならないのだ。
 今までとは違った緊張が押し寄せて、私は頬を手で覆った。ふと見た教室の中で、凪くんは呑気に昼寝していた。その姿に無性にもどかしくなった。