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 繁華街で待ち合わせをする以上、異性に声をかけられることはある程度避けられないことなのかもしれない。今待ち合わせをしている相手が先に着いていたら確実に逆ナンされていただろうから、そういう意味では私でよかっただろう。私などに声をかけるのはせいぜい一人か二人くらいのものだ。

「今彼氏と待ち合わせしてるんです」

 逃げるように視線をそらして、断り文句を言う。ナンパ男はそれでも食い下がり、私の隣に馴れ馴れしく居座った。不快感よりも、この光景を待ち合わせ相手に見られたくない気持ちの方が勝る。そうなれば、きっと彼らは逆上してしまうから。

「どっちが彼氏だ?」

 不意に、この場の雰囲気が変わった。世界で活躍する冴となると、そういうオーラのようなものがあるのかもしれなかった。

 冴と凛が、私の前にいる。残念ながら私が断り文句を言っている時から話を聞いていたのだろう。一番感情的になりそうな凛が大人しくしているのがせめてもの救いだった。

「俺だよな」
「俺だろ?」

 糸師兄弟は冷静に、しかし彼らが生まれながらにまとう圧を持って、私に詰め寄る。二人に圧倒されてか、ナンパ男はどこかへ行ってしまった。私がナンパ男でもそうするだろう。

「もう彼氏のフリする必要ないんだけど……」

 ナンパを断る演技をこれ以上続ける必要はない。それでも、二人は「彼氏」という言葉にとりつかれているようだった。通常彼氏とは一人を指すのだから、凛と冴はどちらが当てはまるのか気になって仕方ないようだ。凛は凄みを増した視線で私を見下ろした。

「俺と兄貴どっちと死ぬ運命になるか選べ」

 普通、その威圧感はナンパ男へ向けるものではないだろうか。私はすっかり委縮していた。というか、彼氏のはずが一生を過ごす相手になっている。私と付き合うならそれだけ真剣交際だと言うなら嬉しいけれど、少しでも彼らの琴線に触れるようなことがあったら私は愛と言う名の鞭で叩きつけられそうだ。

 これはどちらか選ばないと解放してくれないのだろうな、と察知して私は途方に暮れた。