▼ ▲ ▼

 テレビに録画機能ができて久しい。映画を第二、第三の趣味として楽しんでいる私は、録画したものを倍速で視聴して楽しんでいた。倍速でも十分話は理解できるし、わからなかったら巻き戻せばいい。私個人の趣味なのだから誰にも文句を言われる筋合いはないのだけれど、そうなら共有スペースのテレビで見るべきではなかった。そして、同級生の五条悟は何かと文句をつけてくる男であった。

「はあ? オマエ倍速で観てんの?」

 私の後ろを通りかかった五条は、足を止めて私に語りかけた。ちょうどいいところを邪魔されたくはなかったのだけど、仕方なしに一時停止ボタンを押す。これから濡れ場が始まったら少し気まずい。いや、私はもう慣れたのだが、五条は案外純粋な反応をしそうだ。

「わかってねーな、映画ってのは等速で集中して観るもんなんだよ」

 意外にも五条も映画を好きなようだった。この分では、映画をそのまま再生していてもよかっただろうか。そういえば、夏油と二人でレンタルビデオ店に行ったという話を聞いたことがある。

「オマエは言っても聞かねーから映画館で強制的に集中させんぞ」

 ぐいと腕を引かれ、私は立ち上がらせられた。慌ててテレビを消し、五条の後を追う。五条は速足で歩き、宣言通り映画館へ向かっているらしかった。別に逃げないのに、私をずっと捕らえたままだ。五条は映画館のロビーで高校生のチケットを二枚買い、適当な洋画のシアターに入った。映画を観ている最中五条は退屈ではないかと思ったけれど、五条は案外真面目な顔をして映画を観ていた。

「感想はどうだよ」

 映画が終わり、高専へ戻る最中、五条は得意げに聞いた。その自信に少し反抗心を抱く。確かに映画館で観る映画は素晴らしいけれど、寮で倍速で観ても別にいいではないか。仕返しをするように、私は挑戦的な笑みを浮かべた。

「デートみたいだね」

 五条が映画の感想を聞いているとわかっていて、そうではないことを言った。温室育ちの坊は、やはり恋愛やデートというものに縁がないようだった。

「そういうことを言ってんじゃねーっつーの……」

 恥ずかしそうに後頭部をかく五条は見ていて気持ちいい。仮にも映画を奢ってもらった身なのだから少しはお礼をしなくては、と思ったけれど、この後お茶でもしようものならさらにデート感を増す気がしてどうしたものかと思った。