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静まり返った部屋にスマートフォンのブルーライトが光る。この部屋で動いているのは、名前一人だけだった。主がシャワーを浴びている間に、カイザーのスマートフォンの中身をチェックする。画像フォルダ、メッセージアプリ、カレンダー。どこを探っても出てくるのはサッカーのことばかりだ。あるいは、ファンサービスと思われるカメラ目線の自撮りである。名前が探していたものは、なかなか出てこない。
焦る手つきでスクロールすることに夢中になっていた瞬間、肩にカイザーの顔が置かれる。
「浮気の証拠は見つかった?」
呼吸が止まりかけた。実際に、手は止まっていた。カイザーは見られてもいいということなのか、スマートフォンを取り上げることはしなかった。名前が疑っている浮気だって、言葉で否定していない。
「俺は上手だからな。早々見つからないぞ? せいぜい頑張るんだな」
カイザーはタオルを肩にかけ、ロッカールームを後にしてしまった。残る名前は呆けたように、カイザーのスマートフォン片手に固まっている。カイザーが廊下を歩いていると、ノアが背を壁に預けてこちらを見ていた。
「ないものを探させて何がしたい」
カイザーは眉をひそめた。名前に浮気を疑われても平気でいたカイザーが初めて見せた不快の表情だ。
「お前、浮気なんかしていないだろう」
カイザーは視線を逸らす。名前とのことに他者から口出しをされたくない、というのが本音だった。
「不満は愛より手っ取り早いんだよ、子猫を引き付けておくにはな」
カイザーはそれだけ言って歩き出した。ノアは小さくため息をつく。結局、カイザーは浮気などしていないということだ。名前の自覚があるかどうかはわからないが、カイザーはかなり名前を好いている。でも、名前をカイザーに結び付けておくには愛し合うより浮気の疑いをかけさせた方が早いのだ。何と屈折した男だろうかと思わずにはいられないが、事実としてそれは効果を奏している。カイザーは浮気をしていないのに、浮気をしているふりをしているのだ。名前はどれほど苦労しているのだろう。でも、こればかりは本人達の問題だ。ノアは諦めたようにその場を去った。
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