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「研磨って人に誘われたバレーもちゃんと続けるし、好きじゃなくても付き合ったら彼女のために尽くすんだろうね」

 そう言う名前は、どこか考え込むような表情をしている。きっかけになったのは、おれがバレーで全国に出たことなのだろう。クロに誘われて始めたバレーは、今や全国出場経験として履歴書に書けるまでのものとなった。まあ、おれの方はそれほど大層に考えてはいないのだけど。

「おれが好きじゃないみたいなのやめてくれない」

 おれは顔をしかめてみせた。褒められているのはわかっている。でも、バレーも名前も、きちんと好きなのだ。

「だってあんまり積極的じゃないじゃん」
「それは名前が『消極的なおれ』を好きだからでしょ」

 別におれだって、そうしようと思えば積極的になれる。名前にがっついたり、何度も誘ったり。人に見られていたら恥ずかしいけれど、名前と二人きりならそうしたい欲望だってあるのだ。今はただ、自分らしくないと思うからしていないだけで。

「え、私はバレーに一所懸命な研磨もいいと思うけど」

 名前は虚をつかれたような表情をしている。そこで、おれは会話がすれ違っていたことに気付いた。おれは名前のことを好きじゃないわけではないと言い、名前はバレーのことだと思っていたのだ。どちらでも間違いではない。でも、彼女本人を前に力説してしまったのは恥ずかしい。

「……そういうトラップやめてくれる」

 おれはスマートフォンに視線を落とした。どうやら逃げようとするおれの魂胆は丸見えだったようで、名前はおれの横から顔を出した。

「今私のこと言ってたな!? 私のこと結構好きだな!?」
「ウザ絡みしないで」

 ゲームをしているつもりだけれど、あまり集中できない。今回はおれが掘った墓穴だけに、埋まるしかない。今日だけは好奇心旺盛な恋人のことを恨めしく思った。