▼ ▲ ▼
「研磨って人に誘われたバレーもちゃんと続けるし、好きじゃなくても付き合ったら彼女のために尽くすんだろうね」
そう言う名前は、どこか考え込むような表情をしている。きっかけになったのは、おれがバレーで全国に出たことなのだろう。クロに誘われて始めたバレーは、今や全国出場経験として履歴書に書けるまでのものとなった。まあ、おれの方はそれほど大層に考えてはいないのだけど。
「おれが好きじゃないみたいなのやめてくれない」
おれは顔をしかめてみせた。褒められているのはわかっている。でも、バレーも名前も、きちんと好きなのだ。
「だってあんまり積極的じゃないじゃん」
「それは名前が『消極的なおれ』を好きだからでしょ」
別におれだって、そうしようと思えば積極的になれる。名前にがっついたり、何度も誘ったり。人に見られていたら恥ずかしいけれど、名前と二人きりならそうしたい欲望だってあるのだ。今はただ、自分らしくないと思うからしていないだけで。
「え、私はバレーに一所懸命な研磨もいいと思うけど」
名前は虚をつかれたような表情をしている。そこで、おれは会話がすれ違っていたことに気付いた。おれは名前のことを好きじゃないわけではないと言い、名前はバレーのことだと思っていたのだ。どちらでも間違いではない。でも、彼女本人を前に力説してしまったのは恥ずかしい。
「……そういうトラップやめてくれる」
おれはスマートフォンに視線を落とした。どうやら逃げようとするおれの魂胆は丸見えだったようで、名前はおれの横から顔を出した。
「今私のこと言ってたな!? 私のこと結構好きだな!?」
「ウザ絡みしないで」
ゲームをしているつもりだけれど、あまり集中できない。今回はおれが掘った墓穴だけに、埋まるしかない。今日だけは好奇心旺盛な恋人のことを恨めしく思った。
/kougk/novel/6/?index=1