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 土曜の午前練が終わり、私と北さんは揃って校門前の道を歩いていた。今日は備品を買いに行くのだが、選手達から新しい種類のものがいいとの声を寄せられているので北さんに見繕ってもらうのだ。適当な話を並べつつ駅前へ向かおうとすると、突然後ろから「あの!」と声がした。振り向いて見てみると、服装からしてうちの学校の後輩のようだ。

「付き合ってください!」

 思わずわーおと言いたくなる。告白されたことがないわけではないが、他人への告白を聞くのは初めてだ。やや興奮しつつも、ここに私がいていいのだろうかという焦りが生まれる。北さんがオーケーして親密な雰囲気になったら私は立ち去ろう。そう決めて北さんを見る。北さんは動揺した様子もなく、真っ直ぐな目で彼女を捉えていた。

「すまん、苗字がおるから無理や」

 呆気に取られる私を置いて、北さんは歩き出す。慌てて隣に並びながら、私はたまらずに口を開いた。

「北さん、どういうことですか!」

 私達は付き合っていない。ただのキャプテンとマネージャーという仲だ。面倒だからと女がいることにして断る男もいるだろうが、北さんはその部類ではないと思う。誠心誠意返事をするイメージだ。しかも名前を出されては、相手にとって私と北さんが付き合っているように思われてしまう。北さんは一体何がしたいのだろうか。

「何って、今から俺ら買い出し行くやろ。あの子に付き合うんは無理や」
「そっちの意味の付き合ってじゃないですよ!」
「普通こんな道端で告白せえへんやろ」

 そこに関しては私も同意だが、断り方があまりにも紛らわしすぎる。「これから苗字と買い出しに行く予定があるから無理」ならば事実の通りだが、「苗字がいるから無理」では私と付き合っていることになってしまう。北さんはようやく後ろを振り向いたが、彼女はもういなかった。

「何や、悪いからもう一回聞いたげようと思ったけどおらんやんけ」
「もう一回告白させたところで北さんどうせフるでしょ……。やったらこのままの方がええんちゃいますか」

 北さんは目を丸くして私を見た。その表情は驚いているのか、喜んでいるのか、わかったものではない。

「苗字がええって言うならええわ」

 北さんは再び歩き出す。私としては私と北さんが付き合っているということを訂正してほしい気持ちはあるのだが、もう一度告白現場に立ち会うくらいならば誤解されたままでもいいと思っていた。北さんが告白されている姿を見たくないのは、ただ単に気まずくなるからだ、多分。