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 修学旅行の夜ともなれば、はめの一つでも外したいものである。しかし、男子が女子の部屋に来るとはいかがなものだろうか。本当に漫画のように女子部屋に来た男子達を見て、私はそんなことを考えていた。

 男子達を受け入れ、一緒にカードゲームをしている女子からは遠ざかり、私は片隅に座る。隅には既に先客がいた。自前のゲーム機で一人ゲームに興じる、研磨だ。

「研磨まで何やってるの?」

 研磨とは長い付き合いだが、研磨が女子の部屋へ忍び込もうとするとは思えない。それくらなら部屋に残って一人で寝ているはずだ。研磨はゲーム機から目を上げないまま答えた。

「女子部屋行くからっておれも強制的に連行された」
「研磨は無視して寝そうなのに」

 研磨は偶然クラスの一軍男子と同じ部屋になってしまったのだろう。だからと言って、人の顔色を伺うような研磨ではない。研磨の人づきあいがよくないことは、私が重々承知している。研磨は漸くゲーム機から顔を上げ、私の顔をじっと見た。まるで言外に何かを語りかけるかのように。

「名前がいるからいいかなって」

 腐っても今は修学旅行の夜であり、私達は男女だ。先程からウノをする声でうるさいのに、一瞬私の中の音が止まった。

「勘違いするようなこと言うんじゃないよ! こちとら修学旅行だぞ!」
「おれも修学旅行だけど」

 研磨の冷静なツッコミを聞き流し、私は幼馴染モードに入ろうとする。研磨は幼馴染の私がいるから女子部屋に行ってもいいと思っただけで、他意はないのだ。研磨だって勘違いされたら困るというような態度をとればいいのに、平然としている。私にどう思われるかなど、どうでもいいのだろうか。

「明日、誰か付き合ってるのかもね」

 その声は傍観者のように平坦で、研磨が腹の中で何を考えているのかわからなかった。