▼ ▲ ▼

 多忙な牛島くんの時間がとれたのは土曜日の午後だった。私は牛島くんの寮の部屋で待っているように言い渡された。部屋を指定したのは、寮生の目につくと少なからず照れがあるからなのだろう。密室がいい、という理由ではないはずだ。

 急いで来てくれたのか、ドアを開いた牛島くんは汗をかいていた。労いの言葉を言う暇もなく、牛島くんは口を開く。

「シャワーを浴びてくる」

 そのまま行かずに部屋へ寄ってくれたのは、私を待たせている意識からだろうか。それにしても、この状況でシャワーは意識するなと言う方が無理だ。私達は付き合っている恋人同士で、今いる部屋は密室なのだから。つまり、シャワーを浴びた後に待っているのはそういうことだろう。

「じゃあ私も浴びたいんですけど……」
「お前はダメだろう」

 抵抗の余地もなく、一刀両断される。人の住んでいる寮のシャワーだということは私も理解しているが、それでも乙女として入っておきたい気持ちはある。牛島くんはやや視線をそらし、独り言のように言った。

「男子寮の共用風呂にお前を入れたくない」

 それは、独占欲ととっていいのだろうか。胸に甘いときめきが広がるが、シャワーなしでするのでは牛島くんに幻滅されてしまうかもしれない。

「で、でも流石に私だけシャワーなしで致すのは……」

 今度は私が視線をそらす番だった。今日するなら、私達にとって初めてのことだ。できることなら、準備をしておきたい。

「何をだ?」

 察してほしいとでも言うように目配せをしたが、牛島くんはやや目を細めただけだった。

「俺は今日お前を脱がす気などないが」
「え?」

 くだらない、とでも言うように牛島くんは首を横に回す。

「俺は練習後だから汗を流したい、それだけだ」

 私は勘違いをしていた。それも、牛島くんに伝わってしまった。

 羞恥が体を駆け巡り、唇を噛んで黙り込む。なんて恥ずかしいのだろう。牛島くんは私を思いやってか、タオルをとるとすぐに出て行ってくれた。「すぐ戻る」その言葉を残して。