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 顔の良し悪しに関わらずナンパを受けるのが繁華街というものである。ここで調子に乗ろうものならナンパ男の狙い通り、経験人数の生贄になるだけだ。先程から一方的に話しかけてくる男を無視すること数分、向かいから研磨が現れた。私が片手を挙げると、研磨も小さく頷く。意識を自分の方へ戻した時には、隣で何かとちょっかいを出す存在は消えていた。

「あれ、ナンパどっか行っちゃった」
「おれが金髪でガラ悪いからでしょ」

 待ち合わせ場所に着き、私の横に並んだ研磨はそう言った。その手は温かいコーヒーが差し出している。待ち合わせに遅刻したわけではないけれど、寒い中待たせたことへの研磨なりの礼儀なのだろう。私はそれを受け取り、かじかんだ両手を温める。

「彼氏に見えたんでしょ」

 少し悪戯っぽく言ってみる。研磨は確かに金髪だが、決して非行少年のようなイメージはない。「ガラが悪い」という自覚があるのは恐らく周りから言われたのだろう。研磨だって、変な男避けに金髪にしているわけでもあるまいに。

「違うし。ていうかナンパばっかいるなら待ち合わせ変えればよかった」

 研磨は小さく言って顔を逸らした。変な男に絡まれてほしくないと思うだけの絆はあるのだろうが、彼氏とからかわれるのは嫌なようだ。目立ちたくないくせに金髪にするとか、研磨にはそういう変な所がある。

「研磨がいるから大丈夫だよ」

 私が言うと、「彼氏扱いしないでくれる」と研磨が言った。研磨はどうしても自分のガラが悪いことにしたいようだ。あれほど目立ちたくない研磨がそう言うとは、余程彼氏扱いに抵抗があるのだろう。研磨がこう言う時は、照れ隠しと決まっている。だって、そうでなければ二人で休日に出かけることなどしないのだから。

「どこ行こっか」
「おれが誘ったんだから、プランは決めてあるから」

 歩き出した私の隣に、研磨が並んだ。