「乱数、邪魔しますよ」
「あれ?ゲンタローが突然くるなんて珍しいねー」
「すみません、体が勝手に」
「え〜っ!幻太郎そんなにボクに会いたかった?」
「貴方というか、いえ、聞かなかったことに」
「あ、わかったよ、なまえちゃんでしょ、ゲンタローお気に入りだもんねー」

オカマ口調の派手な髪の毛をした自称キューピッドを名乗る怪しい二人組に突然マイクを使われまして。
あ、ボクそれ知ってるかも。幻太郎攻撃受けちゃったの?
不意打ちでしたから。追い返してやりましたが。何か知っているなら教えていただいても?
ん−。いいけど面白くなりそうだからあとでね!とりあえずなまえちゃん呼んでくるね〜
(好きな人にすっごい告白したくなっちゃう効果がある、そんな噂を耳にしたことがある。噂通りであの子に会いたくなっちゃったなんて、これはそういうことだよね!帝統にも連絡しよ〜っと)
まったく、何を知っているのやら……。しかしこの無性に彼女に会いたくて仕方がなくなってここまで来てしまったが、おそらくあの奇天烈な二人組の攻撃を受けたせいだろう。敵意は感じられなかったし、

「待ちなさい乱数、どこへ行くつもりですか」
「ダイジョーブだよ幻太郎!結末は後でちゃんと聞かせてね☆」
自分のことは自分が一番わかっているつもりだ、脳の思考回路いっぱいに広がる女への欲の塊を乱数の目があることで理性が勝てている。軽い足取りで事務所から去っていった乱数にひらひらとのんきに手を振るなまえに怒りのようなものすら湧いて出てくる。唇をぐっと噛み締めて手の皮をつねる。クソ、今すぐに腕を伸ばして懐に入れ込んでしまいたい。そんな葛藤もむなしく、なまえはこちらの様子に気が付き近づいてくる。

「夢野先生、どこか体調でも」
「近づかないでもらえ、ますか」
「え、っと、その。でもなんだか苦しそうな表情ですし」
「いいから」
「とりあえず、水持ってきてみますね」

いつもならば1メートル以内に入ると呪いの力で犬に変わってしまうのです、などと吐けたであろうキャッチボールにも単語しか返せず。当たり前に怪しまれている。帰ってしまえばいいものを、一度ソファに落とした体はいうことを聞きやしない。マイクのなんらかの効果が自分に働いているならば正直もうどうにもならない、あきらめた方が早いのでは?と判断はぱらぱらと崩れ溶けていく。

「お持ちしたので、どうそ。一応ストローさしておきました」
「のんきです、っねえ」

かけられた声に閉じていた瞼を上げれば、足元にしゃがみこみコップを差し出す#nam1#が視界に入る。
もちろん手の届く場所にきていて、こちらを覗き込む形でいわゆる上目遣い。
コップ預かりる際に指先が触れ、頭をびりびりと麻痺させる。少女漫画じゃないんだぞ。詰まった喉に無理やり水を流し込み机に重力そのままの力でカン、と音を立てて空になったそれを机に返す。

「熱とか、測りますか?心なしか顔も赤いような気もしますし……」

腕を伸ばすと同時に身を乗り出したなまえの清楚な花のような香りが漂い、ずっと組んでいた腕がフリーになってしまっていたのがなおいけなかった。近づく体に腕を回し、ぐっと引き寄せる。首筋にぐりぐりと顔を埋めて全身にかけられていた力をそのままに強く抱き締める。バランスを崩したなまえはこちらに完全に体重を預けてきており、柔らかくてちいさくてとにかく愛らしい。

「すきです」
「へ、えっ、あの、せんせ……っ、え、ええ?」

やってしまった、とやっと戻ってこれたのはなまえの半ばパニックのようなぱくぱくとした声のおかげであった。今自分はなんて口走った?まずいまずいと信号を送る脳みそに反して、相も変わらず腕を話すことができず神経回路との連携がまるで死んでいる。こうなったらやけくそになるしかない。

「付き合ってください」
「ゆ、夢野せんせ、どこか、おかしく」
「本気です。すきです、あいしてます」
「あああ……」

ようやくなまえの顔を覗き込めば真っ赤に熱を帯びていて、腕の力をまた一瞬ぎゅうっと強めてしまう。そんな反応をされたら期待してしまう。やめろ。いや、やめなくいい、期待させてくれ。願いを込めながら半ばパンク状態のなまえに選択を迫る。

「オーケーなら抱き締め返してくれますか?」