Liebe
■
■レギュラー番組の収録終わり、安田と大倉は
■知り合いが経営する六本木の居酒屋店に来て
■いた。
■2人の他にも業界人が多数来店するだけあっ
■て、若いアルバイト店員にも指導がしっかり
■行き渡っており、個室でなくとも飲みやすい
■雰囲気が漂っている。
■そのおかげか酒は進み、三十路の男達の会話
■は『くだらない雑談』から『恋バナ』へと発
■展していた。
■「大倉って、」
■「おん」
■「一途やんな。よく考えたら」
■「何なんいきなり」
■「蓮華以外本気で好きになったことないやろ
■■、自分」
■安田の的を射た言葉に大倉はビールを煽るの
■を止め、ジョッキをテーブルに置く。
■「んー」
■「実際さ、いつから好きなん?」
■「わからん。気付いた時にはもう好きにな
■■ってたしなぁ。アナザー始まる前とか?」
■「きっしょ」
■「きしょい言うなや」
■枝豆を食べる安田の手元に視線を落としなが
■ら大倉はふと自分の過去を思い出し、1人顔
■を顰めた。
■蓮華のことを好きでいながら、少なからず体
■の関係を持った女性は沢山いるわけで。
■三十路になった今、大倉は自分のせいで傷付
■いた女性が少なからずいることに苦笑する。
■「何わろてんねん」
■「や、つくづく俺ってクズやな思って」
■「そういえば・・・この前佐伯さんと収録同
■■じでさ、大倉のこと気にしてたで。元気で
■■やってるかって」
■「何それ」
■思わず笑ってしまった。
■佐伯、とは大倉が5年ほど前に告白されて付
■き合っていた女優だ。
■他の女性同様、佐伯ともほんの数ヶ月の関係
■だった。
■毎回、彼女達に対してではなく蓮華に対して
■の罪悪感に襲われ、自分から別れを切り出し
■ていた。
■しかし、この年にもなると相手側の年齢も年
■齢で結婚を意識されるのが面倒臭く、ここ2
■年ほどは特定の恋人を作っていない。
■「あの子のことも結構泣かしたやろ」
■「泣かしたっけ」
■「多分泣かしてたよ」
■安田は通りがかった店員にハイボールの追加
■注文をし、手を付けていなかったお通しの里
■芋に箸を伸ばす。
■「で、どうするん?」
■「どうするって?」
■「蓮華とのこと。告白とかせぇへんの?」
■あまりにも単刀直入な質問に大倉はまた苦笑
■いを浮かべ、ジョッキを握る自身の手を見つ
■めた。
■「メンバーの俺からしたら、あまり気まずい
■■雰囲気にはなって欲しくないからさ」
■「それって告白すんなってこと?」
■「どちらとも言えない」
■「何やねんそれ」
■大倉が笑うと、安田も釣られて笑った。
■「怖いん?」
■ハイボールを持ってきた店員に安田はお礼を
■告げ、話を続ける。
■「何が?」
■「蓮華に言うの」
■「怖いっつーか・・・多分、蓮華は俺の気持
■■ちに気付いてるよ。何年も前から」
■「まぁ、やっぱそうやんな」
■「だから蓮華もクズやねん」
■「ふふっ」
■「多分アイツ、俺が好きやって知ってるから
■■自分から離れへんって安心し切ってる」
■「その通りやん」
■「・・・まぁ、」
■横山のことが好きで横山と付き合っているに
■も関わらず、彼女は大倉から向けられている
■好意に気付かないふりをしていた。
■少なからず、大倉にとっても蓮華にとっても
■今の関係はとても心地が良く、絶妙な距離感
■なのだ。
■勿論、これまで友人以上のことをしたことは
■ないし、これからもこの状態が続くのであれ
■ばするつもりもない。
■だが、付かず離れずな関係が2人を精神的に
■支えていることは事実で、大倉は自身の気持
■ちを口にしてしまったら、数十年かけて築き
■上げてきたこの関係が一気に崩れ去ってしま
■うのではないかと懸念していた。
■「蓮華とキスしたいとか思わんの?」
■「思うよ。勿論、セックスもしたい」
■「ヨコちょに嫉妬せぇへん?」
■「嫉妬してるやん」
■ジュニアの頃から横山に片思いをしてきた蓮
■華。
■横山のことが好きだと蓮華に相談を受けた際
■、彼女への気持ちに気付いた大倉。
■それからずっと横山よりも近くで彼女を見て
■きて、そして想ってきた。
■しかし数年前、そんな横山はいとも簡単に大
■倉から蓮華を奪い去っていった。
■いつかこの日が来ることを覚悟していたはず
■なのに、毎晩女々しく家で泣いていた。
■あの頃と比べたら横山への嫉妬心は大分自制
■が効くようになったが、それでもまだ時折抑
■えが効かないぐらいに嫉妬をしてしまうこと
■がある。
■「大倉?」
■「・・・ん?」
■「何か来とる」
■安田の声で我に返った大倉がテーブルに置い
■ていた自身のスマートフォンの画面を覗く。
■侯くんと喧嘩した、そう蓮華から送られてき
■ていたラインの画面を復唱しながら安田に見
■せる。
■「きみくんとけんかした、」
■「えぇ?」
■「やって」
■■■■■
■彼はそれを見て「タイミング良すぎやろ」と
■声を出して笑った。
■「呼ぶ?」
■「呼んでもええ?」
■「聞かんくても呼ぶやろ。別にええよ」
■相も変わらず着信履歴の1番上にある名前を
■タップし、通話ボタンを押す。
■大倉は安田にも聞こえるようハンズフリーに
■してから、2人の中間にスマートフォンを置
■いた。
■コール音が2回鳴り、直ぐ繋がる電話。
■『たぁーよし』
■「今何処おるん」
■『喧嘩して家出てきた』
■「行動早っ」
■『忠義はどこぉ?外?』
■「外。ヤスと飲んでんねん」
■『章ちゃんと?』
■「蓮華ー」
■『章ちゃーん』
■「喧嘩したん?ヨコちょと」
■『した。ムカつく』
■「話聞くからおいで」
■『行ってええ?』
■「おん。場所送るからおいで」
■『わかった。ありがとう』
■「ほんなら一旦切るで」
■『うん』
■「はいはい。またね」
■「バイバーイ」
■『バイバイ』
■この子はしっかりバイバイって返すねんなぁ
■、と変なところに感心する安田を横目に大倉
■は位置情報と共に「気を付けてな」と一言添
■えてラインを送る。
■蓮華は横山と喧嘩をすると、8割方はこうし
■て大倉のもとへ連絡するのだ。
■愚痴を言いたいのか寂しいのか、どちらの理
■由にしろ大倉にとっては彼女に頼られる好都
■合な展開である。
■「何か嬉しそうやな」
■「え?俺?」
■「俺」
■「まぁ、そやな」
■蓮華とのラインのやり取りに目を落としてい
■ると、突然「俺はそんな2人を見て、蓮華の
■こと諦めたけどな」と安田がふと漏らし、咄
■嗟に驚いた大倉が顔を上げた。
■「え?」
■「ん?」
■「え?待って、ヤス、今何て言った?」
■「ん?俺が蓮華を諦めた理由」
■頬杖を着きながらニコリと笑った安田に対し
■て、久しぶりに彼が自分より年上だというこ
■とを思い出した。
■「何それ」
■「めっちゃ驚くやん。知ってたやろ?」
■「いや、ヤスが蓮華のこと一時期好きだった
■■ことは知ってたけど、」
■「そういう時に蓮華が一番に頼るのってやっ
■■ぱり大倉やねん、昔っから。そんな大倉に
■■勝てる気がしなくて諦めた」
■「へぇ・・・」
■それしか言葉が出てこず、大倉は目の前でペ
■ースを落とさずハイボールを飲む安田をジッ
■と見つめていた。
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