銀時さん。銀時さん。銀時さん。

何度も何度も夢に見る。あの人は振り返らない。酷く悲しそうな笑みを浮かべて、私の頬を撫でるといつもそのまま立ち去ってしまう。何度も呼んだ。泣きながら、大きな声で、叫んだ。

でも、銀時さんはいつも振り返ってはくれない。







銀時さんが江戸に帰ってきていることは、いろんな人から聞いて知っていた。でも、会いに行こうとは思えなかった。あれから二年、私は誰よりも笑って生きてきたつもりだ。

でももう疲れていた。もう、笑って待つなんて出来そうになかった。そんな心が折れかけた時に銀時さんが江戸にいるらしいと聞いた。会いにきてくれるんじゃないかと思った。待たせて悪かったなって。約束守りにきたって。言いにきてくれるんじゃないかって、思っていた。

でも、あの人が来ることはなかった。あぁ来てくれないんだなって。やっぱりあの約束は私だけのものなんだなって、そう思った。

私には、あの人を探して、見つけて、声をかける勇気が持てない。もう私のことなんて忘れてしまっているかもしれない。そう思うと足は竦んで動いてくれない。私が勇気をなかなか持てず、そうこうしている間に、江戸は再び戦場と化した。お登勢さんと一緒に安全な場所に避難しようとした時、新八くんが声をかけてきた。


「美月さん、銀さんは帰ってきます。絶対、僕らの元に戻ってきます。だから、待っていて下さい」
「しん…ぱちく、」
「美月はババアと安全な所にいるアル!絶対銀ちゃんのこと美月の所まで連れてくるから!」
「神楽ちゃん…」


二人はそのままターミナルへ向かって走って行った。二人の後ろ姿を見て、ハッとした。私は、ずっと諦めてしまっていたんだ。銀時さんから何かを言われたわけじゃない。それなのに私は銀時さんを待つことを諦めた。みんなは、銀時さんのことを信じているのに、私は信じることができていなかった。

涙がゆっくりと頬を伝う。銀時さん、ごめんなさい。信じてあげられなくて、ごめんね。あなたが背負っているものは、私以外にもたくさんあること、わかっているようでわかっていなかった。私は、私が一番だと驕っていたんだと恥ずかしくなった。蹲み込んで泣く私の肩をそっと誰かが撫でてくれる。

「美月、アイツらなら大丈夫さ。心配いらないよ。銀時も、きっと戻ってくるさ」
「…っはい」

今度こそ信じよう。あの人は、この国を救う。新八くんや神楽ちゃん、桂さん。今日まで一緒に闘ってきたみんなで救ってくれる。銀時さんが護ったみんなが、今度は銀時さんのことを助けてくれる。だから絶対大丈夫。私は一緒に闘えないけど、できることは全部しよう。そして江戸が日常を取り戻した時、私は坂田銀時のことを、約束通り会いにきてくれると信じてただ待とう。



***



闘いは終わったけれど、江戸の街はまだまだ傷だらけだ。私が住んでいた家も、何もかもボロボロで、日常を取り戻すために奮闘する。まだ銀時さんとは会っていない。でも自分から会いに行く気にはならなかった。約束は違わないと言った銀時さんが会いに来てくれないということは、今はその時じゃないってことだ。それがわかっているのに、銀時さんの気持ちを無視して会いに行くことなんてできない。

「美月、銀ちゃん来たアルか?」
「来てないよー」
「あのマダオ何してるアル!!さっさと来いヨ!!!」


ある日、部屋の片付けを手伝ってくれると言って神楽ちゃんがやってきた。屋根の瓦が床一面に広がっていて、それを片付けながら神楽ちゃんはそんな風に怒ってくれた。

「そうだね。でも、もう二年待ったから、これ以上待っても一緒だよ。大丈夫」
「でもォ…」
「神楽ちゃん、ここの瓦どけるの手伝ってくれる?」

そう言うと、神楽ちゃんは渋々といった表情を見せて話をやめて、屋根から落ちてきた瓦をどけ始めた。一人だとなかなか進まない片付けも、神楽ちゃんがいるだけでどんどん片付いていく。瓦を片付け終えると、隠れていた机が姿を現した。そこには昔銀時さんと撮った写真があった。


懐かしいなぁ。たしか、みんなで写真を撮ったついでに無理矢理撮らされたんだっけ。銀時さんはすごく嫌そうだったけど、二人で写真を撮ったことなんてなかったからすごく嬉しくてすぐ現像してもらったんだ。写真の中に写る銀時さんは、思い出通り嫌そうだけどそれがただの照れだってことはわかる。

片付けが終わったら新しいフレームを買って飾り直そう。壊れてしまったフレームを机に置いた時、神楽ちゃんの私の名前を呼ぶ叫び声と、何かが崩れ落ちる音が耳をついた。




***



「いやァ、ほんと、あれだけの事故でかすり傷だけなんてあなた奇跡だよ」
「はは、そうですよね…」
「これに懲りて、片付けは誰か男に頼みなさいよ」
「…そうですね」

あの時、天井が崩れて私の上に落ちてきた。でもいろんな奇跡が重なってかすり傷だけで済んだのだ。念のため病院に行こうと神楽ちゃんに言われて、今は手当てをしてもらっている。体のあちこちに傷はあるものの、本当に軽症だったため、あっという間に手当てが終わった。そういえば、神楽ちゃんどこに行ったんだろう。

「まぁ、頭も軽く打ってるみたいなので、何か異変があったらすぐ来てくだ、」

先生が話をしている途中に扉が勢いよく開く音が聞こえた。神楽ちゃんかなと思い振り返ると、そこには汗だくになった銀時さんがいた。

「…は???え、ちょ、待って。お前重症じゃねェの…?」

あぁ、だから神楽ちゃんいなかったんだ。

神楽ちゃんは真っ直ぐな子だ。もう何もしがらみはないのに一向に会いに行かない私と銀時さんにヤキモキしただろう。きっと私も銀時さんもここまでしてもらわないと会いに行けなかった。「約束したから待ってる」なんてただの強がりだ。会いに行って、拒絶されるのが怖かった。この人に降る雨を止ませたのは神楽ちゃん達だ。私じゃない。ただ待っていただけの私が、会いに行っていいのか不安だった。

「ぎんと、…っ」

その名を口にしようとしただけで涙が溢れて止まらない。どうすればいいのか、どうすればよかったのか、わからない。何か言葉を紡ぎたいのに、出てこない。あの日は笑えたはずなのに、今日は笑えそうにない。ねぇ、銀時さん、何か言ってよ。

「よかったなァ、赤坂さん。彼氏が来てくれて。ここに来てからずっと不安そうな顔してたもんなァ。これからは彼氏に片付けやってもらうんだよ」

先生は笑ってそう言うとすぐ動くと危ないからと少し休んで行くように告げて病室を出て行った。銀時さんは扉の前で突っ立ったままぴくりとも動かない。視線は交わらない。私たちの関係とよく似ている。

見ているのはいつも私だけだった。銀時さんは私を受け入れてくれたけれど、求めてくれたことは一度だってない。今だって、私を求めてくれているのかわからない。


痛い。

痛い。

愛は、痛い。


でも、それだけじゃないことも知っている。寂しさや痛みだけじゃなく、嬉しさも、喜びも、楽しさもあるから愛なんだって、銀時さんが教えてくれた。求めてくれているかどうかなんて、どうでもいいんだ。


「銀時さん」

そう声をかけると、足元ばかり見ていた銀時さんが顔を上げた。目が合ったら、言おう。二年間、ずっとずっと、思い続けていた言葉を銀時さんに伝えたい。そう思っていたけど、目が合ったのと同時に言葉を発したのは銀時さんだった。

「大好き」
「え…?」
「だろ、どうせ」

その瞳には、あの日のような悲しさはない。本当に帰ってきたんだと改めて実感する。そして、あの日の出来事を今日までずっと覚えていたのは自分だけじゃないのだと嬉しくてたまらない。でもなんだか大好きという言葉が腑に落ちなくて首を横に振った。

「ちがうよ」
「え?は?ちょ、もしかして待たせ過ぎて愛想が尽きたとか?今○○くんと付き合ってるの〜とか?ダメだよ○○くんはァ。お前を大事にしてくれるヤツにしなさい!」
「ふふ、誰なの?○○くんって」

私がそう否定すると、さっきまで全く話さなかったのに急にぺらぺらと話しだす銀時さんがおかしくておもわず笑ってしまった。

そんな私の頬を両手で摘んで「笑うんじゃねェよ」という銀時さんが愛おしくて仕方がない。今になってやっと会えた嬉しさからか口元が緩む。でも、止まっていたはずの涙が溢れ出てきた。あの日、宙を舞って消えてしまった温もりが、涙に濡れる頬をそっと撫でた。あぁ、ずっと、この温もりを感じたかった。

「美月、」

銀時さんは、愛想が尽きたのかと聞いたけど、他の人に目が眩むなんて、一度もなかった。私はいつだって坂田銀時だけだった。この人の温もりしかいらない。きっとこれからも、ずっと。

銀時さん、あの日は大好きだと言ったけど、そんな言葉じゃ、今のこの気持ちを伝えるには足りないよ。銀時さんも、そう思ってくれているといいなぁ。


「愛してる」


少しかさついた唇に触れる時、聞き逃しそうなほど小さな声で、でもはっきりと、私の声と重なるようにそう聞こえた。

あなたのために有る


Title By ユリ柩