お相手:蔵馬
“奇跡ってね、起きて初めて、価値が見出だされるものなの。
でも、起きるか起きないかは、問題ではない。
信じるか信じないかが、一番重要になってくる――”
「神秘的だな」
「でしょ。南野君には、ちょっと難しいかも」
「まさか」
彼女神話
二つの影が、揺らいでいる。
温かく包むそれは、確かに柔らかくて。
平等に、オレたちへと差し出されていた。
「でも、滅多に起きないから、価値があるものなんじゃないのか?」
「そうかもね。でもね、あたしはこう考えてる」
“それはいつも、すぐ傍で毎日常に起きているんだけど、奇跡を受けた張本人には、それほどの価値が無いように感じられるから、気づかないだけ”
「後になって、あの出来事はこんなところに繋がっていたんだなって解った時に、奇跡だって大抵の人は言うの」
「へぇ」
「でも、その出来事が起きた時には、もう奇跡は始まっていて、ホントはそれに気づかなきゃいけない」
「それは難しい話だ」
「うん、だから価値があるの」
髪をかきあげて、ふふっと彼女は笑った。
最近、ほのかに薫る甘い匂い。
つけはじめた香水の匂いだと、いつしか聞いた。
「で、最終的には、何事も信じなきゃ意味がない。些細な事でも、面倒な事でも。ちっぽけな事でも、奇跡に繋がってるんだって信じれば、結果的にはそうなってるっていう理屈」
「…めちゃくちゃな理屈だと思うけど」
「え、そうかな」
少し足早で笑う後ろ姿は、この世のものとは思えないほどに、熱かった。
ーーでも、もしそれが、本当ならば。
こうして君と歩いている事でも、奇跡に繋がっているとしたなら。
「だから、あたしも信じてるんだ」
「…え?」
「今のこの瞬間が、奇跡になるようにって」
振り向いて、彼女は言った。
「あ、もしかしたら、もう起きてるのかもね」
ずっと奇跡なんて信じたことはなかったけれど。
どうして、なんだろう。
こんなにも、気持ちが焦がされている。
オレは素直に、信じてみようと思った。
Fin
気が向きましたらぜひ。
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