01. ある晴れた日の
春の暖かな気候は何処へいったのやら。今はまだ五月だけど、もう夏だと言っても過言でないほど暑い日が何日も続いていた。
今日はたまたま掃除当番で、そして運悪くゴミ捨て担当だった。掃除も終わり、ゴミを捨てるために校舎を出ると熱を十分に含んだ空気に包まれた。むんむん、暑い。目指すはゴミ捨て場。日向に出るのは何だか億劫だったから校舎裏を通って向かおうと思う。だってあそこは日陰になっていて涼しいから。
目的地に向かって進んでいくと微かに話し声が聞こえた。足を止めずにいるとその声はだんだん大きくなっていく。次の角を曲がった所で話しているようだった。男子と女子の声。俺は思わず足を止めて壁に背をぴたりとつけた。息を殺してじっとする。
「で、話は何なの?」
声の高さからして女子のほうだろう。一瞬ピリッとした空気が流れた。ああ、俺の直感が正しければ、これは…。今度は男子が声を発する。
「、別れよう」
息を呑む。告白現場に立ち会うのもだけど、こう、別れ話を聞くのも気まずい。引き返すべきか悩んでいると女子の、何で、と訊ねる声が聞こえた。
「何で別れるの?」
「え、お前とは気が合わないなあ、て」
「それ、だけ…?」
「…うん、」
「そっか…」
女子が少し嘆息した。男子のほうは黙ったまま。どれくらい経ったのだろうか。暫くして、女子がさっきよりも明るい声で、今までありがとう、と男子に告げた。男子はそれを聞くと、じゃあ、と言って歩き始めたようだった。足音が遠くなっていく。多分俺とは反対側へ歩いていったのだろう。もしあの男子がこっち側に来たら俺とばったり遭遇しただろう。そう思いながらほっと息をついていると、不意にまた足音が聞こえた。あ、やばい。
「あ、」
「へ、あ、名字さん?」
校舎の角から顔を出したのは同じクラスの名字さんだった。それじゃあさっきの別れ話は彼女たちのだったんだ。聞いたことある声だなあ、とは思っていたけれど、まさか彼女だとは。ああ、すごく気まずい。
「奇遇、だね」
咄嗟に出た台詞。奇遇だねって何だよ。君たちの会話聞いてましたって言ってるようなもんじゃないか。と、内心ドキドキしている俺に対して名字さんはただ目をぱちぱちしているだけだった。彼女は一旦俺の横のゴミ袋を見て、それからまた俺を見た。
「栄口くん、ゴミ捨て担当?」
「へ、あ、うん」
「私、やるよ」
「…えっ!?」
一瞬反応できなかった。固まっている俺に構わず、名字さんはゴミ袋を持って歩き出した。俺も慌てて彼女を追いかけて、彼女の手からそれを奪い取った。彼女は少し驚いたようだった。
「栄口くん部活でしょ。私やっとくから」
「でも俺の担当だから。名字さんこそ帰ってていいよ」
「…じゃあ、栄口くんに付いてく」
それならいいでしょ?そう言って、彼女は眉尻を少し下げて微笑んだ。初めて見た表情。声音とか表情とかにピリッとした感じはなくて、さっきとは別人のように思えた。でも、俺は知ってる。さっきありがとうって言った時も、俺と話している時も、彼女の声が震えていたこと。
090712
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