もし俺以外の名前を言ったら、目の前で呑気に欠伸をしているこいつを殴ってもいいだろうか。
「さっきから人のことじっと見てて何なの?」
「なあ、お前さー」
「ん?」
「好きな奴とかいんの?」
「田島」
こいつを殴ってもいいだろうか?いや、構わないだろう。握り拳を作りその頭を殴ろうとした時、不意に背中にずしっと重みを感じた。顔だけ動かして見れば、田島が俺の背中に乗っていた。
「何?名字って俺のこと好きなの?」
「いや、見かけたから名前呼んだだけ」
「そっかー」
こいつの好きな奴は田島じゃない、というか、そんなことは知っている。何故なら、こいつの口から聞いたから。
昨日教室に忘れ物をして取りに行った時、こいつとこいつの友達が話をしているのを偶然聞いてしまった。話とは所謂恋愛話というもので、俺は思わず耳を傾けた。
「ところで、名前って誰が好きなの?」
「私たちも言ったんだから教えなさいよ!」
「泉孝介だけど」
友達に迫られて、照れた様子もなくさらりとこいつの口から出たのは俺の名前だった。確かにこいつは俺の名前を言ったのだ。
「で、誰?」
「三橋」
「え、名字さん、なに…っ?」
「何でもないよ、三橋。呼んだだけだから」
「おい、ちゃかすな!ほんと、誰なんだよ」
「さあ、誰でしょう?」
こいつはにんまりと笑った。答えないつもりらしい。こいつから聞き出して、その流れで「俺も好きなんだけど」的なノリで告白をしようと思ったのに…。もういい、殴ろう。そう思っていると今度はこいつに泉は?と尋ねられた。
「へ…?」
「だから泉の好きな人」
ずいっ、と身を乗り出してにんまりと笑ったまま顔を近づけるこいつに俺は慌てて後ずさった。じっと見つめてくる。ついでに側にいた田島と三橋も俺のことを見ている。何なんだ、この状況は…!?
「なあなあ、誰なんだよ?」
田島が急かすような声音で言う。覚悟を決めて言おうとするとこいつはため息をつき体を戻した。
「いいよ、私知ってるし」
「へ、」
こいつの言葉に一瞬思考が停止する。何を、知っているって…?
「両思いで良かったね、泉」
「え、な、何言ってんの…?」
「じゃあ私はそろそろ帰るかな」
呆けている俺を尻目にこいつは鞄を持って席を立つ。
「あ、そうだ」
すたすたと歩きドアに手をかけたところで、あいつは何か思い出したように振り向いた。その顔には何か企んでいるような笑みを浮かべていた。
「盗み聞きはよくないと思うよ、孝介クン?」
にやり、と口元を歪ませるのを見て瞬時に悟る。手を振りながら教室を出ていくあいつに手を伸ばした。
Play Love Game?
あいつのほうが一枚上手らしい。
090827