みーんみーん、と蝉が鳴いていて、もう夏なんだなあと思った。そういえば最近のお日様も元気だ。そんなさんさんと光を放つそれをバックに、私はしゃがんであるものを見ている。うじゃうじゃ。やはり蝉の命は一週間なのだろうか。それを見ているとなんだか可哀想に思えてきた。
不意に視界が暗くなる。

「何やってんの?」

顔を上げると、ユニホームを身にまとった、頬にそばかすの目立つ少年が後ろに立っていた。私はついさっきまで見ていたものを指差すと、彼は物凄く顔を歪めてから目を逸らした。まるでとてつもなく気持ち悪いものを見たような感じ。いや、それを見て気持ち良いと思う人はそうそういないとは思うけれど。

「よくそんなもん見れんな」
「別に…。あれ、泉って虫とかって駄目だったっけ?」
「いや、駄目って訳じゃねーけど、うじゃうじゃしてんのは嫌だな」
「えー、何で?」

普通、女の子だったらここで黄色い悲鳴でも上げるのだろうが、生憎私はそういうものは平気である。別に好きな訳ではないことは先に断っておく。変なやつー、と言われたので軽く睨んだ。

「別に変じゃない、」
「おー、そうか」

適当に流す泉を今度は強く睨む。黙って。そう言うと、まだ何か言いたそうだった彼は驚いた表情のまま口をつぐんだ。私は前方のうじゃうじゃに視線を移した。

「彼らは一生懸命なんだよ」

生きるために、彼らは動いている。ただそれだけのために、エサを求めている。
それに対して人間は。人間が求めているのはエサだけではない。生きるためにいらないものまでも求めてしまう。どうしても。何故なら、人間は自分の存在を失う事を酷く恐れる生き物だから。自分というものがなくならないように、自分を証明してくれるもの、例えば財産とか地位とか名誉とか、誰かの温もりとか、そういったものを手に入れたがる。酷く臆病だ。

「人間は、弱い」

ぽつりと呟いた声は彼の耳にもしっかり届いたようで、今まで黙っていた彼に怪訝な顔をされた。

「どうしたんだよ、いきなり」
「…んー、何でもない」

すく、と立ち上がりスカートについていた砂を払い落とす。隣を見ると彼はまだ怪訝そうに私を見ていた。

「ほんとに大丈夫かよ、暑さにやられんたんじゃねーの?」
「むっ、私は至って普通ですよー」
「…なら良いけど」
「…ねえ、泉」
「ん?」
「私は泉と一緒にいたいよ」
「…へ、何、いきなり」

私の言葉に、彼は目を真ん丸にした。そんな彼に私はにこりと笑いかけた。私が存在しているという証拠に、私は泉を求めようと思う。


090713

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