あぁこれが青春なんだな、ってぼんやり思っていた。私は自転車の荷台に座り、目の前でYシャツを腕まくりして鼻歌を歌いながら自転車を漕ぐ男の子のお腹に腕を回してる。今日はなんと部活が休みなんだ、と嬉しそうに伝えて来た彼に自転車にエスコートされたのは25分前くらい。少し日は伸びてきたけれどまだまだ日が沈むのは早い。オレンジ色した大きな塊はもう3分の2ほど地平線より下に沈んでいた。


「どこ、行くの?」


少し大きめの声で猫背になっている彼の背中に声かけた。彼は鼻歌を止め、うーんと悩むように首を傾げた。


「決めてへん」
「え!」
「なんかちょっと走りたい気分やったっちゅー話や」


走りたい気分。時々彼はその言葉を発していた。まだ顔見知り程度の関係だった時、教室でその発言をする彼を白い目で見ていたことをふと思い出した。懐かしくて小さく笑みがこぼれた。でもいつもなら1人で駆け回るのに、自転車じゃなくて走るほうが好きなはずなのに。何で今日は自転車なんだろう。よくわからない彼に次は私が首を傾げる番だった。


「色々考えてんけど、」
「うん」
「俺の好きなことで吽と2人きりになれる時間考えたらこれしか思いつかへんかった」
「うん?」


部活が生活の軸になっている彼と付き合うのは我慢が必要だった。でも告白された時、部活優先になってしまうけど・・・と申し訳ないように言った彼にYESと言ったのは私だ。普通のカップルを羨ましく思い続けたけどそれでも彼を嫌いになることはなかったし、彼もまた嫌いと言うことはなかった。寧ろ何も言わない私に心配すらしていた。
だけど自転車で2人乗りすること以外にも2人きりになる方法はいくらでもあっただろうに、ちょっと馬鹿そうで、でも実は頭の良い彼の考えていることは私には未だ理解できてなかった。


「走って風を感じると爽快感あんねん」
「ふーん」
「それを感じるとなんかめっちゃ幸福感が出てな」
「うん」
「それに吽と2人きりっちゅーことをプラスしたらなお幸せになるんやないかなぁ思って」
「は」


まだ肌寒いこの季節、耳が真っ赤になることはご愛嬌だと思ってもらいたい。普段は初心なヒヨコなのに時々こんな発言をするもんだから私は彼から逃げられないのだ。逃げるつもりはないけれどなんというか、こう、嵌っていってしまう。
この馬鹿野郎、と風の音で消え去った私の声は彼には届かずただ私は彼のお腹に回す手に力を込めた。少し肩を揺らした彼は、少し自転車の進むスピードを落とした。


「今日、謙也の誕生日なのに私がプレゼントをもらった気分」
「ははっ、一石二鳥やな」
「馬鹿、私は謙也に何もあげてないじゃん」
「今、この時間がプレゼントやねん」
「それで、私がいると幸せが増したの?」
「おん、今にも天に登りそうな気持ちや」
「・・・阿保か」


また軽快に鼻歌を歌い始めた彼の背中をバシンと叩いた。いった、と大げさにリアクションする謙也のヒヨコ頭から見える肌が真っ赤になっていることに気づいた。白石に感化されてキザな台詞を吐き始めたと少しくすぐったい気持ちになったけど、シャイで照れ屋な部分は変わっていなくて嬉しくて更に腕に力を込めて抱きしめた。


「締めすぎや殺す気か」
「可愛い彼女に抱きしめられてるのに不満なの?」
「ほんならもうちょい可愛く抱きしめてくれてもええやろ」
「ねぇ謙也」
「無視か!」
「誕生日おめでとう」
「・・・遅いわ。もう今日は終わりかけやっちゅーのに」
「あれ、待ってた?」
「そんなん待つに決まってるやん、阿保」
「あ、いつもの謙也に戻った」
「・・・たまにはキザでクールな謙也さんもええやろ」
「私はどんな謙也でも好きだよ」
「・・・やかましい」
「ねぇ謙也」
「なんや」
「誕生日おめでとう」
「・・・おん」



170317 謙也さんバースデー





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