「はぁ・・・」
「お天道様がニコニコしてるこんな青空日和に何ため息ついとんねん」
「・・・ええやん、俺かてため息つく時もあるっちゅー話や」
「で、何やねん。しゃーないから優しい蔵ノ介様が話聞いてやるわ」
「あんな・・・」


それはつい昨日の話であった。天候は生憎の雨。室内練習場がない四天宝寺男子テニス部は、空いてる室内でストレッチをすることなくオサムちゃんのお笑い講座〜ツッコミ編〜を行うことが決定していた。
テニス部の唯一のツッコミ担当(であると自負している)忍足謙也は普段なら意気込んで参加するはずがこの日はなんとなく気が乗らず、クラスメイトの部長に見つからないよう自慢の俊足を使い、授業が終わったと同時に学校から出て行った。


「昨日オサムちゃん怒ってたで」
「・・・それに関してはあかんかったと思ってる」
「2コケシ没収やて」
「罰則軽いな!」


高校生であるが生活の中心がテニスで回っている彼は、今日は好きなことをして放課後を過ごそうと密かににやけていた。何をしよう、そういえば好きなバンドの新しいCDが出たはずだ、あぁそういえば新しいデニムがほしい。シャー芯切れたから文房具屋にも行かないと。めくるめく働く頭はどこか心地よかった。


「前置き長いわ」
「ええやん!まだ昼休みは20分残ってんねん!」


駅に隣接している商業施設をのんびり歩いている時だった。雨ということがあり、室内にいる人はいつも以上に多い。あまりのんびり歩くことを好まない忍足謙也にとって人混みは自分のペースを乱されるあまり好ましいものではなかった。だがしかし人混みでしかも室内であるこの状態で急いで歩く訳にもいかず、スマートフォンをいじりながらゆっくり歩いていた。
そんな時であった。ふと顔を上げると道の反対側を歩く女の人と目があった。普段なら勢いよく顔を背けるはずなのに何故か目を逸らすことができず、まるでゾーンに陥っている状態であった。雨の音、耳から流れる音楽の音、人の声、人の足音が一切聞こえず、視界に入らず、ただスローモーションのようにその女の人が歩くところが目に刺激として入ってきた。


「ようは一目惚れしたんか」
「略しすぎや!通り過ぎるまでずっと見つめ合ってたんやで!運命やろ!」
「そりゃこんな背の高い金髪おったら物珍しさで見る人は多いやろなぁ」
「・・・白石に話した俺が馬鹿やったわ」


その女の人が視界から消えた途端、喧騒が戻ってきた。慌てて後ろを振り向いてももうその女の人はいない。スローモーションでみたあの女の人、左胸を締め付けられるようなこの感覚。ヘタレだのアホだの後輩に言われる謙也でもこの感覚はわかった、あぁきっとこれは


「恋に落ちてもうた」
「通りすがりの女の子に恋に落ちるなんて漫画みたいな話やな、どんまい謙也」
「なんでもう実らん感じに終わらしてんねん!」
「やってどーせヘタレ謙也のことやから連絡先とか聞いてへんのやろ?」
「・・・気づいたらもう人混みの中やねん」
「身元も連絡先もわからへん子と成就する方がありえへんわ」
「・・・今日も昨日と同じ時間にあそこおったら会えへんかな」
「きも」


あーきもいきもい、と吐くジェスチャーをしてスマフォをいじりだした友人を見て、また謙也は机に突っ伏した。
実るわけない、そんなこと分かっている。でももしかしたらまた会えるかもしれないなんて淡い期待を持ち続けてしまうのが恋愛の厄介なところである。
いつか時間が経ち、あの子の事を忘れるまで、顔も着ていた服も忘れるまで、それまで待たなければいけないのか。滅多にないこんな出会いを忘れなければならないのだろうか。


「なぁ謙也」
「・・・なんや毒手」
「・・・・・・」
「読んだだけかい!」


ナーバスな状態の片思い男に反して、バイブルという異名をもつ白石蔵ノ介は気分が高揚していた。それは友人の一目惚れ話に飽きてポケットに入っていたスマフォに来ていたメールを見たからだった。メールの相手は他校に行っている幼馴染の友人からであり、その内容は

【昨日駅ビルでめっちゃかっこいい人と目が合ってね。金髪で長身で、四天宝寺の制服着てテニスバック持ってたんやけど蔵ノ介知らない?】


「その子の名前は阿吽やで」
「は?」
「隣町の女子校に通ってて、帰宅部。ちなみに彼氏はおらん」
「は?は?え、なんやねん突然!」
「謙也のタイプの顔ってあんな顔なんや」
「おい白石!話聞けや!」
「謙也が一目惚れした子、こいつやろ」
「は、え、な、なんで白石があの子の写真、持ってんねん、」
「漫画みたいなことも起きるんやなぁー」




160221
不完全燃焼。





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